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雪村千鶴side



慶応……いえ、明治二年のお正月は、驚きの連続から始まった。

まず、私はいつか蝦夷地に渡ってやろうと、薫と共に、土方さんと別れた仙台の街に潜伏していた。
僅かの間の厳しい生活だったけれど、薫のおかげでなんとかやっていけた。

そんなある日、ある人物が私たちを訪ねてきた。
それは……

「お迎えに上がりました。……千鶴ちゃん、それに、南雲家の頭首」

「君、菊さん!?」

「な……なんで八瀬の姫の従者がこんなところに……?」

薫はいきなり現れた君菊さんに警戒心を剥き出しにするけれど……でも、殺気は無い。
八瀬の姫……お千ちゃんが、香耶さんの親友だったことを、きっと知ってるから。



「香耶様は生きておられます。現在、新選組の幹部だった者で、死に損なった者を隠れ里に集めています」

「香耶さんが……生きてる!?」

君菊さんの言葉に私は素直に喜んだ。

よかった……!
新選組の幹部を集めてるってことは……沖田さんにもきっと会えたに違いない。

あのふたりが無事に再会して、幸せでいてくれたら、なぜだかそれだけで、今までの辛い生活が報われるような気がする。



そうして、今まで薫と住んでた家などを引き払い、君菊さんの案内で隠れ里へと向かった。
隠れ里は、なんだかとても眺めの良い山の上の集落跡を、住めるように手を加えたところだった。
そんな可愛い村も、香耶さんらしいと感じるから不思議。



「香耶はここにいないのか?」

「はい」

「なんでわかるの? 薫」

「そんなことくらい気配でわかる」

「嘘!? すごい!」

気配って何!
双子の兄なのに出来の違いを見せ付けられたみたいで、内心ちょっと落ち込んだ。



村の入り口で、私たちは意外な人物とはち合わせた。

「……ほう。仙台の隠れ家からやっと這い出てきたか」

「……!! 風間!」

「えぇ!?」

あれ? 新選組を集めてる隠れ里に、なんで風間さんがいるの!?
現れた風間さんは洋装で、天霧さんも伴っていた。なぜかすぐにでも旅に出るような雰囲気。

「あの……どこか行くんですか?」

「蝦夷です。あなた方も香耶殿に伝言があれば伝えましょう」

「香耶さん、もう蝦夷地にいるんですか!」

それには呆れるくらいに驚いた。私たちだって蝦夷に行こうとしていて、なのに渡航できなくて手をこまねいていたというのに。

しかも沖田さんと山南さんを連れて行ったというのだから。あの組み合わせを引き連れていくなんて、私だったら絶対無理だ。戦争の前に精神的に死にそう。私の中でまた、香耶さんへの尊敬度が上がった瞬間だった。



「風間ー! 香耶に手紙持っていってよ!」

村の建物から、女の子が走ってくる。風間さんをそんなふうに顎で使おうだなんて勇者だ。それは私がよく知る人物で……。

「お千ちゃん!」

「千鶴ちゃん、ひさしぶりね!」

私たちは手を取り合って再会を喜んだ。



「聞いて! 香耶から重大発表があったのよ!」

「落ち着いてください、姫様」

なんだかお千ちゃんのはしゃぎっぷりが尋常じゃない。
鼻息を荒くするお千ちゃんを、君菊さんがなだめた。

「ど、どうしたの? 香耶さんはなんて?」

お千ちゃんが懐から取り出した文。それは、香耶さんからお千ちゃん宛てに来た手紙だろう。

香耶さんの手紙といえば、あの必ずしも上手いとは言えない文字の羅列を思い出す。京にいた頃は、山南さんと沖田さんしか解読できない暗号のようなものだったのだけど……。

というようなことをやんわりとお千ちゃんに聞いてみると、私が何年香耶の親友をやってると思ってるのよ、なんて胸を張って笑った。
……そうか、あれが読めないようでは、香耶さんの親友としてまだまだ修行が足りないんだ……!

話がそれたのを薫が不機嫌そうに軌道修正する。

「おい、それより香耶の重大発表ってなんだよ?」

「実はね……香耶がややこを身ごもったそうよ!」

「え……!?」



香耶さんがややこを……ややこ!?



「お、沖田さんの子!?」

「あんな男はどうでもいい!」

なんで!?

「香耶の子ならきっと可愛い子供のはずよ! あーもう楽しみ!」

「……うん!」

私がお千ちゃんと抱き合うように喜びに浸っている間、薫が石のように固まってたり、風間さんが顔をしかめてぶすくれていたりしてたけど……うん、おめでたい!




「千鶴ー! 無事でよかった」

「ひさしぶりだなぁ」

「平助君、近藤さん、みなさんも……!」

新選組に充てられた建物でみんなと再会した。

「今、香耶の懐妊祝いやってんだぜ」

「よーし、ここで俺の武勇伝を聞かせてやる」

「ええー! (皆さんすでに泥酔!?)ご本人もいないのに……」

「こいつらはただ飲んで騒ぎたいだけだろ」

呆れる私と薫に、斎藤さんが座るように勧めてくれる。

「今更驚くことは無い。あいつらはこういう奴だ」

「えぇえ……まぁ、そうですね」

みんなが騒がしく笑いあう光景を眺めて、私も笑った。

「なにはともあれ雪村君、南雲君。よく無事で帰ってきてくれた」

「おかえり、千鶴、薫!」

「え……あ、はい!」

「…………ただいま」

やっぱり私、皆さんに出会えてよかった。
ただ父様を探すために生かされている虜囚と言う立場から、私は初めて、本当の新選組の一員になれた気がした。

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