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月神香耶side



あんまり頻繁に文のやり取りをすると、新政府軍にも旧幕府軍にも感づかれる可能性がある。なにしろ津軽海峡をまたいだ文通だから。

しかし今回ばかりは即行で千に返事を送ることにした。
こちらから送った内容は、無理しない範囲に人員を送ってもらいたい旨と、そして私の懐妊報告だ。

すると十数日後、驚きの人物が千からの文を携えて、函館にやってくる。



私はと言うと、あれ以来ひとりで出歩かせてもらえなくなっていた。

いつものように、囲炉裏端の定番の位置で、炭を転がしながら手足を温めていると、部屋の向こう側の玄関戸をどんどんと叩く奴がいた。
総司君や敬助君はちょうど屋内におらず、もし彼らなら戸を叩いたりなどしない。

つまり来客だと、私はいそいそと土間の下駄に足を突っかけた。

立て付けがよくないその玄関を開けると。



「久しいな」

「……あ!」

目にも眩しい金髪が、私の視界を灼(や)いた。

「千景君!!」

「土産だ」

と、彼は私にあったかそうな毛皮を被せる。
って言うか、千景君、そのゴージャスな容姿に毛皮が似合うな。

千景君を家に招いて上がってもらう。彼の纏う上等な紫のコートが、この質素な家に違和感ありまくりだった。
お茶などを用意していると、総司君や敬助君も順次帰ってきた。

「あ。その顔、一年半ぶり」

言って茶化す総司君に、千景君も嫌そうな顔をした。確かに総司君と千景君はニアミスばっかりしてたからね。

「やはり追加の人員は彼でしたか……」

敬助君は大層複雑な表情だ。



しかしこの三人が仲良く(もないけど)肩を並べていることに、私はちょっと感動した。

「昨日の敵は今日の友ってやつかな……」

「香耶さん、やめてくれない。その言い方」

「不本意なことこの上ない」

そっぽを向き合う総司君と千景君に、によによと笑いが止まらなかった。




「……こいつを預かってきた」

千景君に差し出されたのは、一振りの刀と、そして手紙。

「私の“狂桜”だ!!」

私は嬉々として受け取った。
久しぶりに、愛刀が私の手に戻ってきた。鞘を飾る桜の螺鈿に触れるのも、なんだか懐かしい。こんなに長い期間この刀に触れなかったことは、ここ何十年と、無かったから。

手紙はやはり千からで、千景君と天霧君を応援によこすことと、私の懐妊についてのコメントが書き添えられていた。

『こんな時期に妊娠ですって!? 香耶の馬鹿! 心配ばっかりかけて! おめでとう!』

なんて。



どうやら千鶴ちゃんと薫君も、あの隠れ家で元気にやっているらしく、千鶴ちゃんは忙しい(今のとこそうでもないけど…)私の代わりに、大張り切りで着物やおしめを縫ってくれてる。超助かる。和裁なんかほとんど知らないからね。

けれどもう無尽蔵に金を作り出せる身体じゃなくなったのだし、私も着物の着方くらいは覚えたほうがいいよなぁ……。



ここまで考えて、私ははっとした。

私が妊娠できたのは、もしかしたらゼロが私の身体に何かしたせいかもしれない……って。あの気障な男なら、このくらいの置き土産していきそう。
それは私の想像に過ぎなかったけど、でも私なりに身体を大事にしようっていう意識を、もっと強く改めるきっかけになった。



「千景君もここで暮らすの?」

「いや。俺は市中に宿を取っている」

「ふーん……じゃあ新しい情報を掴んだら、お互い交換し合おうか」

ふん、と鼻で笑って同意の意思を見せる千景君。
次は精のつく食べ物でも持ってこさせよう、なんて、次も訪れる約束をとりつけて、さらに私の身体を気遣う優しさも垣間見せた彼は、颯爽と街へと姿を消したのだった。

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