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雪村千鶴side
「雪村。南雲。お前らはここに残れ」
「え……?」
それは、九月の半ばごろ。
仙台藩の思想は恭順派に傾き、長く留まることは危険と思われた。合流を果たした大鳥さんたちも、仙台を離れることに賛成したそうだ。
そして……
ついに新選組の蝦夷行きが決定された。
旧幕府海軍副総裁の榎本さんと合流するために、私たちは仙台の町を離れて森に入る。
艦隊との合流まであと少しというところで、土方さんは不意に足を止めて、私たちに言った。
「雪村、おまえは戦いから離れろ。もう俺たちに付き合う必要はねえだろ」
「……それは、」
「南雲はどうだ? もう香耶はここにはいねえ。おまえらがこれ以上戦場に赴くのは無意味じゃねえか」
「………」
薫は何かを考るように黙り込む。
「俺は、できればついていきたい」
「薫……」
その言葉に、すこし驚いた。
薫は新選組と関わってそれほど経っていない。ここにいるのだって、香耶さんがいたから……
「香耶さんの行方はわからないけど、あのひとなら、きっと最後まで付き合うって言うんじゃないかな……」
そして薫は私を見る。薫は、なんだかんだ言って、私の意思を尊重してくれるから。
「私も、新選組のみんなと一緒に戦いたいです。みんなと同じ道を歩みたい」
土方さんは私たちの意思を確かめ……そしてまっすぐ私たちを見つめて、言った。
「これは、新選組局長としての命令だ」
冷徹な、指導者としての声音で。
「──蝦夷地への同行は許さん。これ以上、俺たちにも、香耶の遺志にも縛られること無く、平穏に暮らせ。それこそが香耶の願いだったはずだ」
「…………」
「そんな……」
そんな命令を残し、土方さんは背を向けた。
この願いは、紛れも無く。
私自身の願いだったのに。
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