166
沖田総司side
「香耶さんと近藤さんが処刑された……?」
信じられるはずもなかった。
僕と山南さんが、敵の目をかいくぐり、やっとのことでたどり着いた板橋刑場。
そこは何者かの襲撃があったばかりで建物も人も荒れていた。
「いえ。仮に処刑されたのなら首がさらされる……はず」
山南さんも自信はなさそう。
だけど、その言葉が、発狂でもしそうな僕の精神を、かろうじて支えていた。
「きっと……ぜったい、生きてる」
戦いのあったとされる場所には、血痕と弾丸の痕があった。
「銀弾が打ち込まれていますね」
資材に残された銃痕に手を触れ、山南さんが呟く。
銀の弾丸が持ち出されたということは、羅刹と新政府軍が戦ったということだ。
「香耶さんの血は……体温を失うと黄金に変わるはずだから、これは香耶さんの仕業じゃないのかな……?」
「香耶君は変若水を飲まされ羅刹となったのですよ? 今までの常識を当てはめることはもうできません」
「…………」
手詰まりだ。
近藤さんも、香耶さんも、安否がわからない。どうしたら……
「……もし」
山南さんが、考えの読めない目を僕に向ける。
「君が、綱道に変若水を飲まされ羅刹となったとします」
「僕が、羅刹に……?」
「綱道に閉じ込められ、身動きが取れない。しかしそんな時、新選組局長が新政府軍に捕まったという話を聞いたら、どうします?」
「それは……近藤さんを、助けに行こうと……」
すると思う。
たぶん、無謀でも、ここに乗り込んで、近藤さんを助けようとするだろう。
「おそらく香耶君にはそれが出来た。新政府軍側に香耶君の協力者がいれば、不可能ではない」
新政府軍側に協力者? そんな人間いるわけ……。
そこに来て僕ははっとする。
「鬼、なら……」
そう。人間じゃなく、鬼なら協力するかもしれない。
「あくまで私の、なんの根拠もない想像ですが」
「それは……でも、それでも、」
希望が、少し見えてきた。
「この先のことを考えるためには、我々は香耶君の目的を正確に把握しなければなりません」
「香耶さんの目的……? 新選組の誰も死なせないこと?」
「それだけではありません」
それだけじゃない?
……わからない。香耶さんは時々とても酔狂な行動をする人で。
誰かを助けるためなら、新選組や幕府……国さえも敵に回せると言い放つ。
「わかりませんか?」
山南さんは達観したように笑みを浮かべた。
「香耶君の目的は、」
──新選組の幕引きです。
僕は、目を見開いた。
← | pagelist | →