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月神香耶side
甲府に向かう朝。
「ねむい……」
「香耶さん、今日が出立の日なんですよ? 大丈夫ですか?」
「ん」
心配してくれる千鶴ちゃんにうなずいた。
いつもは横で寝てる奴が起こしてくれるんだけど……今日は起きたら隣がもぬけの殻だった。おかげで寒くて布団から出られなかったよ。
広間に着くと驚きの光景が待っていた。
「皆さん、もう起きてらっしゃるんですか………あれっ?」
「あれ、千鶴ちゃん、それに香耶。ずいぶん早いんだな」
「……どちら様ですか。気安く話しかけるな」
「酷ぇなおい!」
「うそうそ。冗談だよ。おはよう新八君」
洋装の新八君だ。ずいぶんとえりぐりを開けてるな。和服のときとあんまり変わらないじゃない。
ぼうっと新八君のむき出しの胸板を眺めていると、誰かががばっと私の背中に飛びついた。
「香耶さん、そんなつまらないもの熱心に見つめてないで、僕のこと見てよ」
「なんだと総司! 俺の鍛え上げられたこの肉体が、つまらないものだと!?」
叫ぶ新八君を無視して、総司君は私の身体をくるりと振り向けた。
「お…ぉお!?」
総司君……髪切ったの!?
「……どう?」
「……っかっこいい!!」
ちょっと照れくさそうな総司君。めちゃくちゃ可愛いな!
たまらず抱きついたら、どこかから不機嫌そうな咳払いが聞こえて、私ははっと我に返った。
しまった。背中に総司君の手が回ってる。しばらく離してくれそうにない。
身をよじって振り返ると、眉根を寄せた歳三君と目が合った。
くぁっ! こっちもどっちも目に毒すぎるイケメンだらけだ。
「どうした。俺の着方にどこかおかしなところでもあるか」
「べべべつに!?」
あたふたする私の頭を総司君がわしづかみにして再び腕の中に納める。首がグキッていったよ……。
千鶴ちゃんも周りを物珍しげに見渡して、そして首を傾げた。
「あれっ? そういえば、近藤さんは洋装じゃないんですね」
「いや、どうも異国の服は窮屈そうでな……あの靴とかいうのも、歩きにくくて仕方ない。それに、やはり武士というのは、袴に刀を差していないとしまらん気がしてな。ただの我侭かもしれんが」
「……あんたは、そのままでいいんだ。前線に出るわけじゃねえし、陣中にどっしり構えててくれりゃいい。あんたの存在自体が、隊士にとって支えになるんだからな」
「そうか? そこまでいうと照れてしまうが……それでは、出かけるぞ! 甲府城にいざ!」
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