155

月神香耶side



いろいろすったもんだがあったけれど、その日の夜に歳三君と再会した。

「言いたいことはあるか」

「え? えーと、ただいま…は言ったし……あ! お土産はありません!」


がごん。
脳天にげんこつが落下してきた。


「いだ──!! 頭蓋骨陥没した多分!」

「ほぅ。何も飛び出してこねえところをみると、頭ん中は空っぽだったみてえだな」

「酷っ」

歳三君の部屋で正座させられる私と薫君。いつかの光景が再び、である。
ただ違うところをあげるとすれば、その話の内容がおもにお説教であることと……

「可哀想な香耶さん。よしよし」

「てめえ総司。香耶から離れろ。邪魔だ」

私の背中に背後霊よろしくぴったりくっついて離れない総司君。総司君とばちばちと火花を散らす薫君。


なんだこの険悪な雰囲気……私のせいか。


「何度も言ってるだろうが。おまえになにかあると総司が使いもんにならなくなるんだよ。どこも行くなとは言わねえがわざわざ戦地で遊ぶことはねえだろ」

「あーだよねー。まぁ後悔も反省もしないけど」

「しろよ!!!」

がごん。

「い〜〜っっ」

再びげんこつを食らって撃沈。
総司君も他のみんなも歳三君の言うことには賛成なのか、彼の暴挙を止めようとはしてくれない。

くっ…完全なアウェー。まったく世知辛い。
と思ったら、たった一人の唯一の味方が助け舟を出してくれた。


「香耶を殴るのはお門違い。だいたい、おまえらが不甲斐ないせいで香耶が出張ることになるんだろ」

「ぐっ……なんだとてめえ」

「いや薫君…」

助け舟は嬉しいけど、頼むからこれ以上諍いの種を撒き散らさないでおくれよ。

「聞き捨てならないなあ。不甲斐ないのは僕達じゃなくて、東軍の上層部のほうでしょ」

「……確かに鳥羽伏見では負けた。だがもう負けるつもりはねえ」

眼光鋭く言い放つ総司君や歳三君。未来を知ってる私でさえうなずいてしまう迫力があった。




そんなかんじで数十分もの正座に耐え抜いた私は、すっかり夜の帳が下りた廊下を今度は総司君に連れられて、とある一部屋にやってきた。

「ここは?」

「僕の部屋」

至極あっさり言い捨てて、その部屋に入る。なるほど……この宿でも私の部屋は総司君といっしょなのか。
それよりもなにやら身の危険をびしばし感じるのは気のせいだろうか。先ほどから総司君の笑顔が怖い。


「あ…あのー…私お風呂に…」

「だめ」


部屋の隅に私を追い詰める姿はさながら飢えた肉食動物のようだ。

だけど私の体温を確かめるように肌の上をなぞる、その硬くて大きなてのひらは、なんだか不安げで。
私は内心覚悟を決めて、総司君の首に手を回した。


「香耶さん……」


迷子の子どもみたいな表情をする彼の顔を引き寄せて、私から唇を寄せる。


「……もう置いていかないで……」


ごめん……。
なんて。


私たちは隙間も時間も埋めるように、深い口づけを交わす。
味も、匂いも、熱も、互いの全部を息もつけないくらいに貪って。

思考も理性も放り投げた。

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