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沖田総司side
慶応四年一月。
新選組は江戸に移り、旗本専用の宿「釜屋」に身を寄せることになる。
鳥羽伏見での負け戦。
大阪城からの撤退。
幕軍の総大将徳川慶喜の恭順。
先行きは暗雲が立ち込めている。
あちこちで聞こえる不安の声から身を隠すように、僕は自室にあてがわれた部屋でじっとしていた。
左之さんや新八さんのように吉原に繰り出す、なんて気にもならない。
あたりまえだ。
僕は待ってるんだから。
あのひとが……。
香耶さんが、無事で帰ってくるのを。
立てた膝に顔を埋めて、耳を澄ませる。
流れる人の気配。足音。いないとわかっていても、探してしまう。
僕の求めるひとがいないかと……。
「沖田さん、沖田さん!」
ぱたぱたと忙しない足音が僕の部屋に近づいてきた。
僕はふすまの向こうに視線を向ける。
「帰ってきましたよっ……!」
転がるように現れた千鶴ちゃん。
僕が、待ちに待った言葉をたずさえて。
「香耶さんが!!」
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