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月神香耶side
『香耶さんただいま帰りましたー♪』
「お帰りー、どうだった?」
『大丈夫です。幹部はみんな生きてますよ』
「ん。よし」
ゼロの報告を聞きながら、山中の小川で血に染まった髪や手足を洗う。
冷え切った水で手も足も凍りそう。天候が雪や雨じゃないだけマシだけど。
あさっての一月七日には、新選組は大阪城に着くだろう。しかし幕府軍の総大将徳川慶喜はその前夜に大阪城から脱出する。新選組も幕臣と共に大阪城を捨て軍艦で江戸へ戻ることになるのだ。
私は薫君が渡してくれた手ぬぐいで髪を拭いて、上着を着込んで身支度を整えた。
「俺たちはこれからどうやって江戸へ向かう?」
『徒歩では新政府軍にかち合う危険がありますよ。それと、香耶さんは少し休んだほうがいい』
「………」
薫君とゼロの声にしばし考え込む。
新選組が江戸に着くのは一月十五日。甲陽鎮撫隊結成が二月。甲州勝沼の戦いが三月六日。
時間はあるけれど……総司君と再会の約束をしたのは十八日ごろだ。となると、残り日数はあと十三日。強行軍だなぁ…
でも、次の目標が総司君に会うことだと前向きに考えてみれば……うん、やる気が出てきた。
「馬に乗ろう。中山道を行く」
ふたりはこくりとうなずいた。
「さて、一緒にいるらしい千鶴ちゃんと千景君はどうしたかな?」
「……風間は千鶴を悪いようにはしないと思う」
「ほう。どうしてそう思うの? 薫君」
「……香耶が、」
「私が?」
「悲しむから……」
「へえー、やるじゃない」
千景君、いい男になったな。
「チッ(余計なこと言ってしまったか……)」
嬉しそうな私に薫君は顔を歪めた。
この戦でイレギュラーとなるのは私の行動、そして鬼の存在、それから羅刹の存在。史実では死んでいる人間が生きていること。その逆も然り。
考えるべき事が、たくさんある。
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