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月神香耶side



年が明ける。
慶応四年。江戸時代最後の年だ。

この年の干支が『戊辰』。
そのため以後一年半にわたる旧幕府軍と新政府軍の戦いを戊辰戦争というのだ。



慶応四年一月。
戊辰戦争の前哨戦となる鳥羽伏見の戦いが始まった。
新政府軍は錦旗(きんき)をかかげ、旧幕府軍を『朝敵』として攻撃。
旧幕府軍側の戦力は約一万五千人なのに対し薩長側は五千人以下である。
しかし幕府軍は最新の兵器を持った薩摩・長州に大敗を喫するのだった。
(一部抜粋:図解 地図と写真で巡る京都の歴史 綜合図書)



砲撃の音で空気が震えている。

屋根から見下ろすのと実際に戦場に立つのとではやはりまるで違うな。
昔、敬助君とふたりで時渡りをして天守閣から炎の上がる城下を見下ろしたことを思い出した。あれがいつの時代で、なんの戦だったかもわからなかったけど。



私と薫君は、新選組の決死隊(新八君の二番隊だろう)が御香宮に来る前に、前線で敵を蹴散らした。
薫君に手伝ってもらって男装をし、“狂桜”を腰に差した姿は、一見して幕府軍側の人間とはわからないだろう。

「白い髪……化け物だ!」

「鬼だ!!」

髪ぃ!? 染めるべきだったか!!
騒ぐ連中を容赦なく斬って捨てて、政府軍を混乱させる。

まぁいいか。これが私の役割だし。
そうして私がひとり大立ち回りを演じている間に……



ドォォン!!!



薫君が敵の火薬庫に火をかけるという作戦なんだから。

ごめんよ御香宮神社……



しばらくすると、森の裏手に薪を組んで作った社から煙が上がる。これは薫君からの合図だ。これが見えたということは、薫君が無事に退路についているということ。
よし。私もずらかりますか。

私が前線を離れるとほぼ同時に、新選組の二番隊が御香宮の土塀をの乗り越えて斬り込むのだった。



街の中は日中だというのに閑散としている。町民はこのドンパチを家の中で息をひそめてじっと聞いているのだろうか。さすがに戦に近いところは避難しているだろうけど。
そんな街中を駆け抜けて宇治川方面へ向かう。

そこで薫君と合流し船を失敬して南下する予定だったが、薫君はどこかで邪魔が入っているのか合流地点にやってくることはなかった。


やっぱりはぐれたか……薫君、怪我しないでね。

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