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雪村千鶴side
全身血に染まった沖田さんが伏見奉行所に帰ってきた。
その表情は出て行ったときより幾分かすっきりしていて、すこし安心した。
沖田さんを探しに行った原田さんや斎藤さんも帰ってきて、沖田さんが平気な顔で出迎えていた。
沖田さんに何があったんだろう。
きっと、香耶さんに関することだ。
沖田さんにあんな表情させられるのは、彼女だけだもの。
「……馬鹿野郎どもが」
土方さんも、沖田さんの姿を見て、少しだけ安心したように見えた。土方さんだって、沖田さんと香耶さんが心配だったんだと思う。
「今回の件は大目に見てやる。だが、二度と勝手な行動を取るな」
「奇遇ですね、土方さん。僕も似たようなこと考えてたんです」
沖田さんがにっこりと微笑んだ。
私はその言葉で、近藤さんが怪我をしたとき、土方さんと沖田さんが言い合っていたことを思い出した。
「近藤さんが大事じゃなかったから、僕も今回は大目に見ようと思ったんです」
僕だって、香耶さんを守りきれなかったし……と、沖田さんが暗い表情で続ける。
沖田さんの話では、香耶さんは元気で別行動を取ってるみたい。
それを聞いた土方さんの眉間にしわが寄る。
「……南雲もいなくなるし……あいつから目を離すべきじゃなかったな」
厳しい表情で黙り込む土方さん。やるべきことがいっぱいある。きっと全てには手が回らない。
「……結局、すべての責任は俺にあるってことか」
ぽつりと洩れた彼の呟きを、私は聞いたような気がした。
二日後の十二月二十日。
近藤さんは治療のため下阪した。
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