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沖田総司side



『いたいた! おっきたさーん♪』

気の抜けるような男の声で、僕は正気に返った。

気付けば周りに生きてる人間はひとりもいなかった。
愛刀も僕の手も浅葱の羽織も、血に濡れて真っ赤に染まっている。
なのにそれに頓着することもなく、全身黒尽くめの男はいつもの食えない笑顔で、まっすぐ僕に向かってきた。

『奉行所にいないから探しましたよー。あーあ。派手に暴れましたねぇ』

「ゼロ君……」

いそいそと懐紙を差し出すものだから、僕はあっけに取られて受け取ってしまった。しょうがないのでそれで刀の血を拭う。



彼を殺す気にならないのは、彼が僕と香耶さんを繋ぐ者だと本能で理解しているからだ。
こいつがこんなにのんきに笑ってられるということは、つまり香耶さんは無事で、どこかでよだれ垂らしながら寝こけてでもいるんだろう。

『沖田さんの読みはほぼ正解です。香耶さんはただいまご就寝中です』

「……心読まないでくれる?」

こいつがいけ好かない、むかつく奴だということも理解した。禿げてしまえばいいのに。てか禿げろ。ばーかばーか。

『ちょ、沖田さんキャラ、キャラ!!』

こんな感じで思う存分ゼロ君をいじり倒したあと、僕達は本題に入る。



「で? ゼロ君がわざわざ僕を探していたってことは、香耶さんからなんか伝言でもあるんでしょ」

『あ、そうでした。とりあえず無事なんで心配いらないよ、ということです。来月には合流できるでしょう』

「来月、」

ひと月は短いようで長い。
とりあえず再会したらお仕置きだね。



『それでは僕はこれで……』

「ちょっと待って」

消えようとするゼロ君を僕は呼び止める。こいつに頼み事をするなんて気に入らないけれど、今はこいつだけが頼みの綱だから。


「香耶さんに伝えてよ。怪我したり…死んだりしたら許さない。無理しないでね、って」

『、分かりました』

ゼロ君の笑顔にほんの少し影が差す。



僕だって知ってる。

香耶さんは、たぶん、この戦で死んだっていいって思ってるんだろう。悔いは無い。むしろ本望だって。いままで幸せだった、って。
それが、積年の望みだったって。

けれど僕は、嫌だ。香耶さんに潔さなんて求めない。

生き汚くたっていい。
生きて。

僕より早く、死なないでよ。



ゼロ君と視線が絡む。

『僕も、そう思いますよ。貴方と同じなんて釈然としませんけど……』

「僕だって不愉快だけど」

今は逆に、信頼できる、なんて。



ひと月後、新選組が江戸に滞在しているとは、僕は思いもしなかったけど。



『(あ、薫さんも一緒だと言うの忘れてましたね……まぁ、いいか)』

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