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沖田総司side
近藤さんのそばから離れると、なぜか胸騒ぎがしてきた。
大事なものがぽっかりと抜け落ちてしまったような。
「沖田さん、あの……」
そわそわと落ち着かない僕に、千鶴ちゃんが言いにくそうな顔で訊ねてくる。
「香耶さん、帰ってきていませんか?」
「え……いないの?」
どくりと心臓が高鳴った。
胸騒ぎの理由は……
「あと、薫もいないみたいで……」
外はもうすっかり暗くなっている。
僕は弾き出される勢いで外へ向かうふすまを開けた。
「沖田さん!?」
「──探しに行く」
そしてあたふたする千鶴ちゃんを残し、床を蹴った。
香耶さん……
最悪の事態なんて、考えたくないよ。
ひゅっと凍てついた空気が咽を通るたびに、頭の中は逆に沸騰していくような気がしてくる。
彼女のことだから、きっと彼女なりの考えがあって別行動をとってるんだろうと思う。
……でも、もしも。
路地の隅で。
人気のない木々の間で。
愛おしいひとの血まみれの姿があったら。
「……ぐっ…!」
やめろ。馬鹿なことを考えるのは。
街道の真ん中に立ち止まって、息を整える。
焦燥だけがつのって、髪をかきむしった。
そのとき。
大勢の人間の気配が、僕の行く手を遮った。
薩摩藩士だ。
「──沖田だ!」
「新選組の沖田が来た!!」
「………」
ふぅん。僕の邪魔をするんだ。
なんて、笑顔で言い放つ……こともなく。
僕はただ無表情で、菊一文字の鞘をはらった。
だってそうでしょ。あれは殺すべき敵で。
僕と香耶さんを隔てるものなんだから。
ころさなきゃ。
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