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雪村千鶴side
「二番隊集合だ!」
永倉さんの怒鳴り声が聞こえる。
「さっさとしやがれ! おら、伏見街道に急ぐぞ!」
十二月十八日。奉行所の守りについた二日後。
「……どうしたんだろう?」
私は張り詰めた空気の中、行き来する人の波をぬって、騒ぎの中心をのぞきこんだ。
そこにいたのは──
「近藤さん!?」
「む……」
近藤さんは私に気付いて苦笑いを浮かべて見せた。
がたがたと騒ぎが大きくなり、沖田さんが駆け込んできた。
「近藤さんが襲われたって……!?」
「綺麗に骨折していますよ。治りは早いでしょう」
「だから落ち着け、総司」
みなで沖田さんを宥めると、沖田さんはほんの少し身を引いた。
けれど、事のあらましを聞くと、再び激昂して土方さんに掴みかかった。
「三人しか護衛をつけなかったんですか!? 今は危険なときだってわかってるくせに、どうしてそんな状態で行かせたんです!?」
「近藤さんが二条城に向かったのは、新選組局長として軍儀に参加するためだ。幕軍のお偉方が集まる場所に、護衛なんか引き連れて行けるかよ」
「……新選組を悪く言う者は、幕軍の上層部にもおりますから」
その言葉に沖田さんはますます表情を険しくする。
「……後ろ指さされたら、格好つかないからですか? 近藤さんの命よりも、見栄を張るほうが大事なんですか」
沖田さんの口調には強い怒りがこめられていて。
沖田さんにとってどれほど近藤さんが大事なのか、私にも少しだけ分かる気がした。
「やめなさい、総司。護衛を少なくしたいと言ったのは俺なんだ」
「……っ」
近藤さんにそう言われて、沖田さんは口をつぐむ。
「奉行所守護を手薄にしてまで、自己の保身を図りたくなかったんだよ……」
近藤さんは遠くの何かを見つめるように、口を開く。
「だが……」
まるでここにはいない、誰かを想うように、怪我をした左腕を撫でる。
「心配をかけてしまったなぁ」
気に病まずに帰ってきてくれればいいのだが……
私の、聞き間違いだったのだろうか。
日暮れごろ、永倉さんたちが帰ってきた。
襲撃現場を調査して襲撃犯の遺体を確認してきたらしい。
襲撃犯は御陵衛士の生き残りだったと。
平助君がそれを聞いて、複雑な表情をしていた。
近藤さんは怪我から熱を出して、今は休んでいる。
犯人の事を聞いたとき、近藤さんが言葉を濁して視線をそらしたことが、私の印象に残っていた。
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