143

雪村千鶴side



「二番隊集合だ!」

永倉さんの怒鳴り声が聞こえる。

「さっさとしやがれ! おら、伏見街道に急ぐぞ!」



十二月十八日。奉行所の守りについた二日後。

「……どうしたんだろう?」

私は張り詰めた空気の中、行き来する人の波をぬって、騒ぎの中心をのぞきこんだ。
そこにいたのは──

「近藤さん!?」

「む……」

近藤さんは私に気付いて苦笑いを浮かべて見せた。
がたがたと騒ぎが大きくなり、沖田さんが駆け込んできた。

「近藤さんが襲われたって……!?」

「綺麗に骨折していますよ。治りは早いでしょう」

「だから落ち着け、総司」

みなで沖田さんを宥めると、沖田さんはほんの少し身を引いた。
けれど、事のあらましを聞くと、再び激昂して土方さんに掴みかかった。

「三人しか護衛をつけなかったんですか!? 今は危険なときだってわかってるくせに、どうしてそんな状態で行かせたんです!?」

「近藤さんが二条城に向かったのは、新選組局長として軍儀に参加するためだ。幕軍のお偉方が集まる場所に、護衛なんか引き連れて行けるかよ」

「……新選組を悪く言う者は、幕軍の上層部にもおりますから」



その言葉に沖田さんはますます表情を険しくする。



「……後ろ指さされたら、格好つかないからですか? 近藤さんの命よりも、見栄を張るほうが大事なんですか」



沖田さんの口調には強い怒りがこめられていて。
沖田さんにとってどれほど近藤さんが大事なのか、私にも少しだけ分かる気がした。



「やめなさい、総司。護衛を少なくしたいと言ったのは俺なんだ」

「……っ」

近藤さんにそう言われて、沖田さんは口をつぐむ。

「奉行所守護を手薄にしてまで、自己の保身を図りたくなかったんだよ……」

近藤さんは遠くの何かを見つめるように、口を開く。

「だが……」

まるでここにはいない、誰かを想うように、怪我をした左腕を撫でる。

「心配をかけてしまったなぁ」



気に病まずに帰ってきてくれればいいのだが……



私の、聞き間違いだったのだろうか。



日暮れごろ、永倉さんたちが帰ってきた。
襲撃現場を調査して襲撃犯の遺体を確認してきたらしい。
襲撃犯は御陵衛士の生き残りだったと。
平助君がそれを聞いて、複雑な表情をしていた。

近藤さんは怪我から熱を出して、今は休んでいる。
犯人の事を聞いたとき、近藤さんが言葉を濁して視線をそらしたことが、私の印象に残っていた。

| pagelist |

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -