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月神香耶side
結果。
私は近藤さんの左の腕を折って逃げました。まる。
「うああああああ」
「うっとおしい。奇声を上げるな。最初から決まっていただろ。あの局長が、大事なのは仲間だと言わなかったら、しばらく動けなくなるまで痛めつけるって」
「いやいやいや間違ってないけどその言い方じゃ何? 私がしたのただのドメスティックバイオレンスじゃん」
「(どめす……なに?)」
薫君のフォローが打ち切られて、私はしばらく絶望の中を漂っていた。
ちなみにここ、御香宮(ごこうのみや)の森の中。木が生い茂っているが、さすがに高台だけあって伏見奉行所が丸見えだ。
そしてち、な、み、に。
けっして薫君を連れてくるつもりではなかった。ついてきてしまったのだ。
せっかく新選組に入ったのに、さっそく裏切り者じゃん。薫君。
近藤さんの応急処置は、なんとなく目覚めそうだった島田君に任せた。つまり何もせず置き去り。
「総司君に殺される……」
どうするよこれ。
「で? 今後の予定は?」
私は人の気配を感じない森の中で周囲を警戒しつつ、薫君と身を寄せ合う。だって超寒い。元旦間近なめんな。……私、風邪引くと不味いんだっけ。
「ああ、うん。おそらく一両日中には指揮権が近藤さんから歳…土方さんに渡る。その頃にはこの御香宮に薩摩軍が布陣するだろう。たぶん砲台や……最新兵器が持ち込まれる」
近藤さんを襲ったのはそのため。
この戊辰戦争の前哨戦で新選組全滅、なんてことになったらシャレにならない。
今回は史実どおり、しかしできるだけ穏便に、副長に指揮権が移ることがベストだった。
「薩摩軍を潰すのか?」
「いや、そこまでする必要は無い。…ってか無理っしょ。うちらふたりだよ?
私の目的はあくまで新選組の死者を減らすことに尽きる。新選組に負けを認めさせてさっさと撤退させる」
「ふーん(新選組のためってのは気に入らないけど)。じゃあ、前線付近で薩摩兵の数を減らすか……」
「だね。かなり危険だけど。あとは撤退する新選組につかず離れず追っかけて──来年六日…いや、五日までに淀の千両松に向かう。もし私たちがはぐれても、一旦そこで落ち合おう」
「ああ、分かった。一月五日だな」
もしどちらかが遅れたら、二日間待つ、ということにしてとりあえず作戦会議完了。
そのあとは……江戸に行くことになるだろう。
千鶴ちゃん、それから総司君。また会うときがきたら………どうか私を、叱ってください。
私がこんな感じで物寂しさを感じているとき、新選組のみんながいる伏見奉行所では、やっぱり大騒ぎになっているのだった。
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