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雪村千鶴side
「……はぁ、南雲の処置については詮議の上決定する。今日のところは解散だ。仕事に戻れ」
土方さんの言葉で幹部達は散会する。
私は広間に残って湯飲みを片付けていた。
そんな中、広間の中央に居残っていた香耶さんに、土方さんが鋭い視線を向けた。
「……おい香耶、南雲の手綱を握れるか?」
その質問に、香耶さんは思わせぶりに口角を上げた。
「ただの人でしかない私が、薫君の意志を操れるわけないだろう。でも、その意志が、私には必要だ」
「……その理由は」
「彼は私を信じてる。私も彼を信じてる。この世界でまたひとつ、得がたいものを得ることが出来たから。……それが理由じゃだめかな?」
「ちっ……」
香耶さん……。
いらだった様子で広間を去る土方さんを見送って、香耶さんは私へと向き直った。
「手伝うよ」
「……え?」
「座布団も片付けるんでしょ?」
「あ、はい!」
香耶さんには、たくさんの友達がいて。将来を約束した恋人がいて。
うらやましいくらい幸せそうで。
でも、私よりもずっとたくさんの世界を知ってる香耶さんは、きっと悲しい思いもたくさんしている。
だから、いろんなひとを受け入れて、やさしい。
私は、そんなやさしい世界にずっとひたっていて。でもそれは当たり前のことなんかじゃなくって。
私にも、薫みたいに出来るだろうか。
香耶さんがいない世界なんて、私にはもう考えられないから。
このやさしい世界を。香耶さんを。
守りたいって。
「およ? 総司君、もどってきたんだ」
「……手伝ってあげる。それ貸して」
「おお、ありがと」
「…重そうだったから」
きっと、この世界を知っているひとは、みんなそう思うのでしょう。
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