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私たちが屯所にたどり着くと、千景君はたくさんの新選組隊士を前にして、傷ひとつ無く立っていた。

その足元には無数の羅刹隊士のなきがら。
羅刹隊を率いる敬助君、監察方の烝君と島田君、天満屋から駆けつけた一君らがそれに対峙している。

千景君は私が何か言う前にこちらに気付いた。
私と手を繋ぐ千鶴ちゃんと薫君の姿を見て目を細める。
刀を納め、きびすを返すそぶりを見せる。



「……逃げる気か」

「残念だが、今日はただの時間稼ぎだ。個人の用向きで来たわけではないのでな。長居をするつもりはない」

それ以後一君には視線を向けず、私の姿を視界に納め、笑みを浮かべた。

「覚えておくんだな。これが、まがい物の末路だ」

そして今や骸となった羅刹隊の姿に、千景君は冷めた視線を隠さない。



「血に狂い仲間を襲う存在に成り果てて、それでも我ら本物に敵うことなく、犬のように斬られる運命の哀れな道化。……こんな輩に囲まれて暮らすなら、俺と一緒に来たほうが幸せだと思うがな」



それでも。
答えなんて、わかってるくせに。



ふるりと左手が震えた。千鶴ちゃんが私にすがりつくように、繋いだ手に力を入れる。
その手を勇気付けるようにぎゅっと包み込んで、視線はじっと千景君を見つめる。
千景君は言いたいことは言えたというふうな顔で唇を三日月に曲げ、闇に溶けるように背を向けた。



あー、これで、終わった……
油小路の変が。

はぁ、と溜息を吐くと、これまで張り詰めていた緊張も一緒に抜け落ちて、私はその場にしゃがみこんだのだった。



来月十二月半ばには新選組は伏見奉行所に布陣。
年明けに鳥羽伏見の戦いが始まる。
来年は、争いと流血の一年だ。



わかってる。
私の答えなんて、単純明快だ。

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