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パリンと小瓶の割れる音を耳が拾った。
薫君の手によって壁に叩きつけられた変若水は、木にジワリと広がって、そして消えた。

「貴女じゃなければ……千鶴が連れてきたのが貴女じゃなければ。他の人間だったら、簡単に羅刹にできたのに」

自嘲するような笑みでその残骸を見つめる薫君。



「ねぇ、香耶さん……俺、簡単に人を殺せるよ」

「……うん」

それは、でも、私もだから。



「そうしなければ……だって、南雲は子を産ませる女鬼が欲しかった。俺は存在価値なんてないって」

「薫君」

私は薫君の手をとる。

「私はそれでも、何度でも君を抱きしめたい。私には薫君が必要だよ」

私は雪村の鬼たちに救われた。君たちに出会わなければ今の私はいなかった。



「君は、どうしたい?」



人間に復讐したいなら、手伝ってあげる。変若水を飲んで欲しいなら、飲んであげる。死なないでというなら私は、死なない。



「俺は……香耶さんの………」

「うん」

「香耶さんのそばにいたい」



ならば。

「いればいいよ。おいで。私は許す」

薫君はくしゃりと表情をゆがめた。
それは泣きたいのに我慢してるみたいで。
ぽんぽんとその黒髪を撫で、左手で千鶴ちゃん、右手で薫君の手を繋いだ。


ぉふ…可愛いな。雪村サンド……
シリアスな場面で私は内心悶えていた。

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