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数え切れないほどの薩摩藩士が狭い小路を埋め尽くしている。
そんな戦力差にもひるまず、新八君が刀を振りかざした。

「ぞろぞろと数だけは揃えてきやがって! 死にてぇ奴からかかってきやがれ!」

「へっ、おとなしくそこのガキ差し出して、命乞いでもすりゃ良かったのによ。楽に死ねる思うんじゃねえぞ!」

「は。やめとけ不知火。これだけの乱戦じゃ、むやみに撃っても味方の被害が増えるだけだぜ?」

「ち……狙いが付けられねえじゃねえか! 役に立たねえうえに、邪魔なんだよてめえら!」

誤射されて倒れた薩摩藩士を、不知火君は苦々しげに蹴り飛ばす。



敵も味方もひしめき合う中、揺るぎもしない声の主は、天霧君。

「単身私に挑んでくるとは……勇気だけは褒めてあげましょう」

「あいにくこっちは人手不足でね。いやでも俺に付き合ってもらうぜ……!」

彼には平助君が対峙した。



史実では、平助君を逃がしてやるという密命を知らない新選組の平隊士が平助君を誤って斬ってしまうはずだったが、こちらでは平助君を説得するという千鶴ちゃんもついてきていることもあって、平隊士が平助君を襲うことはないだろう。

ならば今、厄介なのは不知火君と天霧君。鬼の存在か。

私は平助君と天霧君に意識を集中する。
天霧君に押されている平助君に、薩摩藩士が殺到しはじめた。

と、少し離れたところにいた千鶴ちゃんに、ふたりの薩摩藩士がせまってくる。

「っ! あぶねえ!」

平助君がそれに気付くとほぼ同時に。

「───総司君っ!!!!」

私は叫びながら屋根から身を躍らせた。
総司君は屋根を蹴る私の姿を一目見て、私の意図を察した。相手をしていた薩摩藩士を強引に引き離し、平助君へと走り出す。

私は千鶴ちゃんを襲おうとしていた薩摩藩士の背後に飛び降り、その勢いのまま一人の腕を断つ。
避ける間もなく血飛沫が頭にかかり、それもかまわず身を低く構えてもうひとりの腹を薙ぎ払った。

「千鶴ちゃん刀を抜いておいて! 敵が斬りかかってきたら受ける! 受け流す!!」

「は、はいっ!!」

目をつむって無抵抗でいるよりはマシ。そうして敵に隙が出来れば、私が千鶴ちゃんを助けられる確率が上がる。人間を斬るのは全部私が引き受ける。
血みどろの私を見て千鶴ちゃんは顔を青くしたけどそれでも落ち着きを取り戻し、言われたとおり小通連を抜いて稽古のとおり正しく構えた。



視線をめぐらせると天霧君に対峙する総司君の姿。
注意を散らせた平助君に迫る天霧君の拳を、紙一重で総司君がいなしたのだ。

不知火君には新八君と左之助君。天霧君には平助君と総司君。隙の無い布陣が出来上がった。
鬼気迫る私たちに薩摩藩士はひるんでいる。一応の危機は脱した……か。



しかし。

『香耶さん大変です! 屯所に風間の襲撃が!』

「ぬぁああこの忙しいときに!? 何の目的で!!?」

血相を変えて戻ってきたゼロの報告に、いけ好かない金髪が脳裏をよぎった。
監察方……いやこの時間、今なら羅刹隊が出るかもしれない。敬助君は絶対無茶する。絶対だ。

本当は逃げた御陵衛士の残党を始末しに行きたかった。彼らは後に近藤さん襲撃とか色々面倒なことを引き起こす。
けど今は屯所に向かうほうが急務だ。

そう決断を下すこと0.5秒。

千鶴ちゃんの手首をガシッと掴んで南に疾走。不動堂村屯所はすぐそこだ。すくなくとも西本願寺から二条城へ走るよりかは。

「ちょっと香耶さん!!?」

「ごめん無茶はしないから!!」

後は頼むよと千鶴ちゃんを引っ張って、七条油小路を後にした。
薩摩藩士たちが撤退したのはそのすぐ後だった。

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