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新選組と御陵衛士。新選組と薩摩藩士。御陵衛士と薩摩藩士。
油小路は血で血を洗う三つ巴の混戦状態だ。めまぐるしく変わる戦況を、私は屋根の上から注視する。



「……嫌な予感がする。ゼロ、屯所を見てきて」

『了解です』

横にいる総司君が一瞬私に視線を向けた。しかし私は、音も無く現れたゼロが私に向かって一礼しこの場から消えても、眼下の景色から目を離さなかった。



そんな中、孤立する平助君に千鶴ちゃんが駆け寄る。

「平助君!!」

「千鶴!? なにやってんだよ、この馬鹿! 斬られたらどうすんだ!?」

怒ったような、呆れたような声をあげて千鶴ちゃんを背に庇う平助君。その背中を見て、千鶴ちゃんは思わずといったふうに微笑を浮かべた。

「ごめんなさい。でも……どうしても伝えたいことがあったから……」

緊張を紛らわせるように、ふっと息をつく。



「新選組に、戻ってきて欲しいの……」



打ち合う鋼と悲鳴の音が辺りを満たす。
なのに千鶴ちゃんと平助君の周りだけが、沈黙に支配されているみたいで。

私の隣で総司君も、斬り合いに意識を向けながらもふたりを見守っている。



「──俺、は……いまさら……いまさら戻れないって……。伊東さんにつくのが国のためになる……そう思って、こっちの道を選んで……ここまできちまったんだ……」

「いまも……いまも、平助君はそう思ってるの?」

「……わかんねぇ。ただ……左之さんを、坂本殺しの犯人に仕立てるって言う伊東さんは、間違ってるかもって、思った……。だからって、その伊東さんを殺す新選組もどうかと思うけど……」

迫り来る薩摩藩士の刀を叩き落して、平助君は自嘲する。

「……やっぱさ、自分の道って、人についてくだけじゃ駄目だったのかもな……。最近はさ、いつも、新選組にいたときのことばっか考えてたよ」

「私も……平助君のことをずっと考えてたよ。新選組のみんなも、そうだと思う」

「……そっか……」

またひとり、敵を退けて、平助君は笑みをみせた。



「戻りてぇな……でも、もし新選組に戻ったって、今の俺はなんのために戦えばいいのかわかんねぇけどさ」

「……なんのために……?」

「なにをしている藤堂! こいつは新選組だろうが! 斬れ!」

……そのとき。
突然脇から飛び出してきた衛士のひとりが、千鶴ちゃんに刀を向けた。

「っ!」

平助君は身を翻し、その衛士の鳩尾へ柄尻を叩き込んでいた。



「……平助」

血に倒れ伏せた味方を見て呆然とする平助君の前に、総司君が飛び降りる。

「……総司!?」

「──僕には」

襲い掛かってくる衛士を一太刀の内に斬り伏せて、刀に付いた露を払う。



「死なせたくないひとがいる」

屋根の上に残された私の姿を一瞥して。



「戦う理由なんて……それで充分だろう? 平助君」



返り血を浴びて壮絶に笑う総司君。
それにこくりと頷いた平助君の瞳には、力強い光が宿っていた。

「……相手が人だろうが、鬼だろうが関係ない」

自分の中の迷いを振り捨てて。

「俺が守ってやるよ。おまえを狙うすべての敵から、俺がおまえを守ってやる」

その晴れやかな笑みを千鶴ちゃんに送った。


ああもう、ホントこいつらカッコいいな!!!

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