131

月神香耶side



慶応三年十一月十八日

新選組との分離以降、表面的には友好関係を続けていた御陵衛士らがついに牙をむいた。
彼らは佐幕派の象徴である新選組の出身であることから、尊攘討幕派である長州勢や薩摩からなかなか信頼を得られない立場であった。
十月には大政奉還が成立し倒幕活動の中心勢力が長州、薩摩になった今、自分たちが生き残るためには新選組との完全決別は必須だった。
伊東らは薩摩藩兵が続々と上京するのを見て好機到来と近藤の排除を企てるも、新選組の間者として御陵衛士に潜入していた斎藤一によってその計画はつつがなく近藤らに伝わったのだった。
(抜粋:「新選組と土方歳三」双葉社)



「ふぇ…へっくちゅんっ」

「香耶さん大丈夫?」

「うぃ」


七条油小路。
夜陰に身を潜める新八君や左之助君、そして千鶴ちゃんを眼下に望み、私と総司君は近くの蔵の屋根の上で、気配を殺して様子をうかがっていた。

辻には伊東さんの遺体。

あまり気持ちのいい景色とはいえないそれに、はぁと溜息を吐けば、吐き出された白い霞はいろんな思いと共に暗闇へととけて消えた。

とうとうこの日が来てしまったか。
油小路の変。



私がここにいる目的は、千鶴ちゃんの安全に気を配りつつ、今日ここで絶たれることになるはずの平助君の命を救うこと。
総司君は自分に割り当てられた任務(伊東さん殺害)後に私にくっついてきた。おそらく彼の目的は、私を護ることだ。



月が位置を変え始めた頃、彼らはやってきた。

「む、あそこに倒れているのは……?」

「伊東先生! おのれ、一体誰が、このような真似を……!」

六、七人の御陵衛士が、伊東さんの遺体に駆けつける姿が確認できた。
そしてその中には……うつむき表情の見えない、平助君の姿も。



新八君と左之助君は一瞬だけ目を閉じ、そして暗闇から姿を現した。

「……新八っつぁん。左之さん。それにおまえもか、千鶴……」

「永倉! 原田! 伊東先生を殺したのは貴様らか!」

平助君の声が衛士の怒声にかき消される。
──と同時に、一発の銃声が辺りにこだました。



「何事だ!?」

新選組も、そして御陵衛士までもが戸惑っている。
私と総司君も、驚いて屋根から身を乗り出した。

「おいおい……いったい、どこの馬鹿が撃ちやがった!?」

「どこの馬鹿とはつれねぇなぁ。……よう、人間。遊びに来てやったぜ?」

その見覚えのある顔に、千鶴ちゃんが目を見開いた。

「不知火さんに天霧さん……!?」

「おい、なんでおまえらがここにいる!」

「なんでってなぁ……仕事だよ仕事。頭の悪いおまえらと、もっと頭の悪い御陵衛士が罠にはまるのを見物しに来たって事さ」

不知火君がひらひらと手を挙げて合図すると、わらわらと出てくる薩摩藩士たち。
新選組と御陵衛士はすっかり囲まれてしまったのだった。

| pagelist |

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -