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月神香耶side



やってきたのは、千鶴ちゃんと私の部屋。……いや、元私の部屋、か。

「急にいろんなこと言われて、頭の中が混乱したでしょう? ……ごめんね」

くだけた口調は、鬼の姫の千姫ではなく、千鶴ちゃんの友達の千だった。

「ううん、大丈夫。こっちこそ、さっきはみんなが失礼なこと言って、ごめんね」

「まあ、想定の範囲内かな。いきなりあんな話を信用しろって言うのが無理なんだもん。それよりも……私の提案、どうかな? 香耶も、ちゃんと考えてみてくれる?」


ここを出て、千のところに身を寄せる、か。


「悪い話ではないよね。君の庇護があれば、鬼も人もそう簡単に手は出せないだろうし」

「新選組の人は守れるって言っていたけど、私は無理だと思う」

「………」

武力的な面でも、立場的な意味でも。

「だから、私たちと一緒に行かない? あなたたちは新選組から離れるべきよ」

「お千ちゃん……」


千は本気だ。私たちを本気で案じてくれている目だ。
だから、千鶴ちゃんも本気で揺れていた。


「ありがとう、お千ちゃん。でも……」

「それとも……千鶴ちゃんにはここから離れたくない理由でもあるの?」

「……うん」

「あらら……もしかして誰か心に想う人でもいるのかな?」

「えっ!?」

千鶴ちゃんの身体が跳ねた。
おやおや、これは……

「うん……いるよ」

うなずいて、千鶴ちゃんは千の目をじっと見つめた


「……そっか。誰なのかまでは聞かないけど、あなたがひとりの女として見つけたものがここにはあるんだね。それなら、離れろなんて言えないなぁ」

千姫は、にっこりと笑ってそう言った。


「香耶は……『聞くまでもない』か」

「ふふっ、そうだね。私も、想う人と共に在るよ」

なんだか笑いがこみ上げた。ずっと妹のように思っていた千に、恋仲のことを聞かれるなんて。



「千、ありがとう」

「いいのよ。無理強いは出来ないもの」

「そっちじゃなくて。……天霧君に言ったんだよね。私を助けるように、って」

「!!」

「……えっ!?」

千は泡を食ったような顔をする。そして、ほんの少し、泣きそうな顔をした。

「それがわかってて……どうして来てくれないのよっ」

「千のおかげで私はここにいる。感謝してるよ」

「香耶が心配なの!」

「ありがとう…」


私は千姫をそっと抱きしめる。


「……無事でいてね、お願いだから」

「うん」

千も私の体温を確かめるように抱き返した。




「お待たせ……しました」

私たちが広間に戻ると、近藤さん以下、新選組幹部のみんなと、菊ちゃんが待っていた。

「結論は出たかな?」

「これまでどおり、よろしくお願いします」

「お千ちゃん……」

千が幹部のみんなに深々と頭を下げる。



「香耶さん」

総司君が手招きするから、私はなんの戸惑いもなく彼に近寄った。
彼は私を抱きかかえ、胡坐の上にまたがらせて抱きしめる。

「ちょ…」

「残るんでしょ」

その聞き方は…『残る』以外の選択肢を受け付けないよね。

「…うん」

「よかった」

ほっとして嬉しそうに笑うから、私は黙って彼の首に腕をまわした。

「姫様……よろしいのですか、本当に?」

「ええ、もう決めたことだから。今は、彼女たちの意思を尊重しましょう」

千が苦笑して私に目を向けているのが、背中を向けていてもわかる。今は後ろを振り返る勇気が出ない。
けれど総司君は、私の肩越しに千を見て、にっこり笑みを浮かべていることが気配でわかった。


「わかった。そういうことなら新選組が責任を持って預からせてもらおう」

「みなさん、あらためてよろしくお願いします!」


最後に、千姫は千鶴ちゃんの手を取って。


「千鶴ちゃん、くれぐれも気をつけて。私はいつでもあなたの味方だから」

「ありがとう……お千ちゃん」

そして、千と菊ちゃんは屯所を去っていった。

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