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土方歳三side



三人は半時ほど、ゆったりと酒を酌み交わしていた。
静かに時が流れ。

「ふぅ。そろそろ帰らなきゃなぁ」

「そうだな。馳走になった」

「久しぶりにいい酒だったぜ」

「そう? 君たちならいい酒くらい、いくらでも飲んでるでしょうに」

「値段が、って意味じゃなくてさ……」

「うむ。久しぶりに無心になれた」

「そうそう。なんか心が洗われたっつーかさあ」

斎藤や平助の言葉に、香耶は嬉しそうに笑う。

「あはは、確かにそうかもね! 武士たるもの、たまには花も愛でなさいよ。それじゃ、私、行くね」

「ああ」

「屯所じゃあ……いや、なんでもねえ。またな、香耶!」

「うん!」

こうして三人は特に何を話すでもなく、酒を飲んで別れた。



香耶は何もかも、知ってるんだろう。
あいつらの行く先も、そして俺たちの未来も。

それでも敵も味方もあいつにとっちゃ関係なくて、ただ信じるものを疑わない。



「あいつは昔から変わらねえな……」

「……そうですね。でも、だからこそ周りの変化に傷つきやすいのかもしれない」

その言葉に、思わず俺は総司の顔を見た。

長い付き合いの俺でさえ見たことのない、表情。
傷つきやすいと言い切ることのできる、総司と香耶の絆を感じて。

「……ちっ、追うぞ」

俺は総司に背を向けて、苦々しく笑った。



香耶は途中、酒屋で酒瓶を預けて意気揚々と屯所への帰り道を歩く。
だが人が行きかう街中で、とある姿を見つけて、喜々として走り出した。

「……!? 香耶さんっ」

「薫君、見っけ!」

娘姿の南雲に、香耶は飛びついて抱きしめた。



「………」

「……総司。殺気を仕舞え」

気持ちは分かるがな。



「えへへ、可愛いな〜」

「……酒臭い。酔ってるな」

「酔ってません〜」

「酔ってる奴はたいていそう言うんだよ」

南雲は溜め息を吐く。
抱きついたままの香耶をずるずると引っ張って、手近な茶屋に座らせた。
南雲は店の者と話をして、湯飲みをひとつ、受け取った。

「ほら。水、貰ってきてやったから、飲めよ」

「んぅ〜……はぁ、ありがとう、薫君」

「あいかわらず世話の焼ける女だな」

「君は意外と世話好きだね」

ふたりは、しばらく並んで座って、ぽつぽつと言葉を交わす。



「君にとって、土佐はいいところ?」

「……なぜ?」

「だって、君が人間の味方をするのは、南雲家を守りたいからなのでは?」

「それは……違う」

「違った? ごめん」

「謝らなくていいよ。俺には俺の理由があってここにいるだけだ」

「君の理由、か……。でも君たちは、これ以上表舞台に立ってちゃだめだ。君にだってそれは分かるよね」

「………」



「薫君……私と来ない?」

「香耶さん……」

「……なんてね! 君は君の望むように生きてよ。私は君の幸せを願ってる」

「……そんな寂しそうな顔して言われても説得力無いよ」

南雲は表情を緩めて、香耶の頭をぽんぽんと撫でる。
奴の目は、愛おしい者を見る目だった。

その後は他愛の無い会話をして、至極穏やかな時間が流れる。
しかしそんな空気も、いらない邪魔が入って突然壊れた。

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