122

土方歳三side



香耶がやってきたのは、桜が植えられた河原だった。
ここの桜も屯所のものと同様、見ごろをむかえ見事なものだった。
その桜に守られるようにたたずむ香耶も、絵になっていた。

俺と総司は橋脚の陰に身を隠し、香耶の様子をうかがう。

ざあっと桜の花弁が舞い上がり、一瞬、香耶の姿を隠した。
俺の隣にいた総司が、それを見て、思わず、といった様子で足を踏み出した。

「待て総司、見つかってもいいのか?」

「っ……そうですね」

風で乱れた髪をかき上げる彼女の姿を認めて、総司は、はっと我に返った。

……なんだ? 香耶が消えるとでも思ったのか。
総司は、俺のもの言いたげな視線に、渋々口を開く。

「……以前、時渡りをしたときのことを思い出したんですよ」

それ以上は何も言わなかった。
……そんなふうにあいつは消えたのか。

「はぁ……厄介なのに捕まりやがって」

「土方さんにだけは言われたくないなぁ」

……たしかにそうだな。



香耶はしばらく通りを行き来する人の流れを眺めていたが……
ある人物を見つけて、表情を輝かせた。

「あっ、一君! 平助君!」

「香耶!?」

「……何ゆえあんたがここにいる」

香耶は、戸惑う二人を強引に引っ張って、満開の桜の木の下に連れて行った。

「………あ! まさかあの言づて…」

「ちゃんと聞いて来たんだよね?」

「『申の刻に河原まで来られたし』と聞いてここまで来たのだが……」

「そうだよ! 果し合いの申し込みかと思ったんだぞ!」

「あははは、ごめんね。一応、立場上、堂々と花見に誘うわけにはいかなくてさ」

「…そ、そうだった。もう俺ら会っちゃいけねえはずだろ」

「平気だよ。だって私、厳密に言えば隊士じゃないもの」

「いや、そうなんだけどよ……」

ずいぶんな屁理屈だな。



「それに、とっておきの吟醸酒、あるんだから」

「うっ」

平助は高級な酒にころっと釣られやがった。
俺の隣でくすくすと忍び笑いが聞こえるが無視。

「だが、いささか不用意ではないか?」

「ふふん。この時間に知り合いがここを通ることは無い。調査済みだよ」

「……花見のためにか?」

いぶかしげな斎藤に香耶は満面の笑みでうなずく。

「そうさ。それに………」

そして香耶は、斎藤に近づいてなにやら耳打ちし始めた。


「………………………なに!?
……そうか。では相伴にあずかるとしよう」


あっさり掌を返した斎藤に、俺も総司も一瞬唖然とした。
斎藤……何を言われたんだ?


(歳三君が君を案じて、この場を設けてくださったのだよ?)
とんだ大嘘だったと俺が知るのは、しばらく後のことだ。

| pagelist |

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -