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沖田総司side
「ほんとは、一番組組長の僕が、香耶さんに新選組の未来を聞くのは、卑怯なことなのかもしれないって思う。でももう……君がひとりで悩んで、苦しんで、無茶するのは見たくない。
……だから、教えてくれないかな」
「……総司、くん」
僕は香耶さんの耳元に口を近づけて、そっと囁いた。
「君の望む未来のために、僕が君の剣になってあげる」
それを聞いて、香耶さんは空色の瞳をまん丸に見開いた。
そしてその顔を泣きそうに歪める。僕の腕の中で頭を横に振った。
「君は近藤さんのためって言わなきゃだめだ」
「なにそれ」
理不尽なことを言ってくれる。僕は本気で言ってるのに。
「もちろん近藤さんは大事だよ。あの人を守るためなら誰であろうと斬る」
「私でも?」
「その質問は意地悪だなぁ。
近藤さんには……僕じゃなくても、いるでしょ。口うるさくて、下手な俳句ばっかり書いてる、有能なひとが。だから僕は、ひとりで戦おうとする香耶さんを守りたい。君のほうが放っておけない」
「………でも、もし君が、近藤さんと私を天秤にかけなきゃならないときが来たら、迷わず近藤さんを選んでほしい」
どうして香耶さんが、そんな辛そうな顔をしてこんなことを言うのか、僕には分からなかった。
近藤さんか、香耶さんか、なんてそんなの選べるわけないのに。
「僕はどっちもとる」
「それでも、覚えておいて」
一年後、僕は岐路に立つことになるんだ。
香耶さんか、近藤さんかを、天秤にかけて。
「それまでは、総司君と私は、いいなずけってことで。ね」
「許婚ね。まあいいか」
きっとこのときにはもう、香耶さんには、全部分かっていたんだ。
僕の迷いが、大切なひとを傷つけることになるって。
「僕達の部屋に帰ろう?」
「……そうだね」
「お風呂も一緒に入ろう?」
「……そうだ…め」
「なにそれ。どっち?」
「もう。駄目に決まってるでしょ。いきなり何を言い出すの。頭まっしろになっちゃったじゃないか」
「あっはははは」
何も知らない僕は、ただ香耶さんの隣にいて手を握ってればいいと思っていた。
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