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沖田総司side



『婚姻はまだしたくない』


ずきんと胸が痛くなった。
気持ちがぐらついて、思わず逃げ出してきた。

はっきりした拒絶。
香耶さんらしいや。

「……ははっ」

走る速度を落とせば、空笑いが漏れた。

自分の胸元を掴んで、思う。
僕が病にかかっていれば、香耶さんは僕を心配してくれたかな。
香耶さんの心をずっと繋ぎ止めていられるのかな。

未練がましく後ろを振り返ると。



「止まれ! 止まらんと斬る!」

「ええっ!?」

香耶さんは、すぐ後ろまで僕を追いかけてきていた。
僕が走る速度を速めたのは言うまでもない。



「はぁっはぁっ」

「はぁ、はぁ…」

撒こうと思えば撒けたけど、僕を必死に追いかける香耶さんを見ていたくて、隠れるのは止めた。
西本願寺の広い構内を気が済むまで走り回って、香耶さんに捕まってあげた。
で、息が整うまで二人して黙ったままはぁはぁ言って。

「はぁ……っはは!」

なんだか笑いがこみ上げた。
だって冷静に考えれば、香耶さんが好きなのは僕だし、夫婦になるのは嫌じゃないって言った。

香耶さんが婚姻を躊躇するのは、きっと僕と暮らしたくないとかそんな理由じゃなくて。



「一年……」

「え?」

香耶さんの言葉を一言も聞き逃さないように耳を澄ませた。

「一年待ってくれないかな」

「それって……一年後なら僕と婚姻していいってこと?」

「まあ、そうなるね」

「どうして一年なの?」

「それは………」

香耶さんの視線は、戸惑うように屯所に向いた。
その表情は、らしくなく思いつめていて。

僕は香耶さんの髪に指を絡ませて、身体を引き寄せ抱きしめた。


「一年経つまでに、僕達に何か起こるんだね?」


びくっと細い肩が震えた。
この反応は尋常じゃない。

僕は彼女の背に回した腕に力をこめた。

もう逃げられないように。
身体も、気持ちも。

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