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月神香耶side



伊東派の分離が慶応三年三月。油小路の変(十一月)まで、あと八ヶ月だ。
こんなテンション下がるカウントダウン、無いよな。

私の怪我が完治して、早一週間。
私は未だ総司君の部屋で暮らしていた。

「総司君や。そろそろ自室で休みたいのだけれど」

風呂に入る準備をしながら、背後にいるであろう彼に、振り向かずにそう声をかける。
すると。


「香耶さんや、君の部屋はもうここだよ?」

そう返ってきたのだった。めでたしめでたし。おしまい。


…………。

…………はい?

「いや何言ってるの」

「香耶さんこそ今更何言ってるのさ。僕が、羅刹に襲われたあの部屋に、香耶さんを帰すわけ無いじゃない」

お、おお。
ちらっと総司君を見ると、彼の目は本気だった。

「じゃあ千鶴ちゃんは……? 千鶴ちゃんも…」

「そこまで面倒見切れないよ。僕はどこかの某無鉄砲さんの世話で手一杯なんだから。あ、土方さんの許可なら(軽く脅して)もぎ取ってきたから心配しなくていいよ」

不穏な言葉が見え隠れしている。
どうやら総司君の部屋はもう既に、総司君と私の部屋、ということになっているらしい。

「……近藤さんはきっと認めないのでは?」

年頃の男女が同じ部屋に住むなど言語道断!
……とか言いそうなものだけどな。

「近藤さんなら僕達が夫婦になること祝福してくれたよ」

「……そう」

もうなにも言うまい。



「………ん? めおと……?」

「うん。めおと」



………。



「……そう、か」

夫婦か。

私は、それまで背を向けていた総司君を振り返る。
総司君はいつの間にか、私の背中にぴったりくっついていた。

「僕と夫婦になるのは嫌?」

「……そんなことないよ。でも、」

「でも?」

「……でも、私の扱いはどうなるの? 君に囲われて別宅に住むってこと?」

「まさか。そもそも香耶さんは、新選組の機密を漏らさないよう僕達に捕らえられてるんだよね? 今さら屯所を出ることにはならないと思うけど。……香耶さん、そんなに僕と離れるのが嫌なんだ?」

「うーん……それもあるんだけど……」

にやにやしてからかってくる総司君に、私は上の空で答える。



「婚姻はまだしたくない」

正直、この自由に動ける立ち居地を崩したくないんだ。
徳川幕府のタイムリミットは刻一刻と近づいてきてる。
新選組は、幕府の最後の刀となるだろう。

色んなことをつらつらと考えていたら、背後の総司君が音もなくすっと離れた。
そこで私は、総司君の機嫌が急降下していることに、はっと気づく。

「総…」

「もういい」

振り返れば、総司君は部屋を飛び出していった。

しまった。下手打った。

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