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月神香耶side



「香耶さんが丸一日寝てる間に、平助君と一君が新選組を抜けちゃったよ」

「……はぁー」

御陵衛士か。なんてこった。
せめてお見送りくらいしたかったな。

「分かるんだね。どういうことか」

「うん……ごめん」

「なんで香耶さんが謝るのさ」

「わかんない……」



それぞれの選択はそれぞれのもので。
私が、彼らの志まで意のままにしようだなんて、おこがましいにもほどがある。

だから。



「寂しい?」

「ううん。
命あるかぎり。彼らを忘れないかぎり。同じ世界に身をおいているかぎり、それぞれの道は繋がっていられるから」

「……その台詞、聞いたことがあるような気がする」

「ふふ。そうかもね」

……総司君なら、敵になったら斬る、とか言いそうだけど。
それが彼らの仕事だから。

「そうだ、あの黄金だけど」

「え? ああ、結構あったでしょ」

黄金、と聞いて、昨日のこの身におきた有様を思い出す。

「あれ、全部集めて香耶さんの部屋の行李に入れてあるからね」

「あはは、なにそれ」

そんな真顔で報告すること?

「今あの行李、とんでもない重さになってるよ」

「ああ、なんにも知らず持ち上げようとすれば、おなかの傷が開いちゃうかもしれないって?」

「それは笑い事じゃないよ」

そうは言われても、くすくすとこらえきれない笑いがもれる。
そのたびに、おなかに、まさに割れるみたいな痛みが走った。

「それと、ゼロ君のことなんだけど……」

「……うん」

「実は───」




(総司side

「ゼロさん、どうかしら。私と共に来ていただけないかしら」

『い、伊東さん……。いえ、前にも言いましたけど、僕は新選組の人間じゃなくて、香耶さん個人に仕える身ですので…』

ゼロ君は物腰穏やかで見目もいいし、伊東さんに気に入られている。

「けれどずっとお目にかからなかったじゃない。同志たちの間では、新選組の命で下向しているんじゃないかと噂されてましたのよ」

『は、はぁ』

ゼロ君はずっと屯所にいたけどね。人の姿をしてなかっただけで。

「私が聡明な貴方を見込んでお誘いしてますのよ」

伊東さんに詰め寄られて、だらだらと脂汗を流すゼロ君。

『僕……僕っ、すみません!』

「あっ!」

あ、逃げた)




「…ってわけで、ゼロ君は、香耶さんの部屋の押入れの中にかくれてるよ」

「なんじゃそりゃ」

一瞬でも心配した私が馬鹿だったのか。

とりあえず、将来のことに思いをはせていると。
総司君が、おもむろに私の顔を覗き込んだ。
枕に頭を置いたままの私は、目を逸らすこともできずに思考を断ち切られる。

「……総司君?」

じっと視線を重ねあって、総司君は口を開いた。



「死んじゃうのかとおもった……」

少し困ったような表情をして。

「香耶さん……」

そして何度も、何度も、啄ばむように口づけをして。
心臓がうるさいくらいに高鳴る。

「………よかった」



あぁ。こんなに幸せな気持ちになるのなら。

「……死んじゃうのはもったいなくて」

「じゃあ一生死なないでよ」

「なんかおかしくない? それ」

死ぬまでが一生でしょうが。

でも、うん。
生きていられるかぎり。
私はもう、諦めないよ。

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