115
月神香耶side
「──っ!!」
おなかが痛い。
「……生きてる」
私は布団に寝かされていた。
身体が重い。重くて熱い。
……この部屋は、見覚えがある。総司君の部屋だ。
しんと静まり返っている。
「ゼロ?」
ゼロもいない。
ぞくりと身震いする。
なんだか、夢を見たような気がして。
悲しい夢。
大事な何かが、欠けるような。
私は身を起こそうとするけれど。
「……うっ…いった…」
だめだ。傷が治りきってない。
こんな深い傷、久しぶりだな。雪村の里で背中を斬られたとき以来だ。命に関わる怪我を負うのは。
あはは、香耶さんがそのくらいです死ぬようなタマじゃないですよ。
あいつの言葉まで思い出してしまった。
まぁ、その通りだけどね。
この傷も、早くて二、三日で治るだろう。
「──香耶、さん?」
鈴の音を転がすような声に、私は首を動かして振り返った。
「香耶さんっ、目が覚めたんですね!!」
涙声を震わせて叫ぶ千鶴ちゃんがそこにいた。
水の張った桶を持ったまま駆け寄ってくる。
そして、がつんと足をもつれさせて躓いた。
「あ、危な…」
「きゃっ!?」
桶は私の顔面に一直線。
かと思ったけれど、その桶を千鶴ちゃんごと受け止めたのは、いつの間にか姿を現した総司君だった。
「危ないなあ。こういうことは土方さんにでもやりなよ」
「す、すみません!」
「まあまあ、総司君」
可愛い女の子の可愛い失敗じゃないか。
…それに私には駄目でも歳三君にならいいのか。
私は、腹の痛みをこらえながら身を起こそうとするけれど。
「香耶さん、駄目です!」
「寝てなくちゃ怒るよ」
二人に結託されて布団の中に押し戻されてしまった。
「あ、厠に行くんなら僕が抱っこして連れてってあげるから」
「激しく遠慮するっ! いだだだ」
大声を出したとたんに響く腹の傷。ああもう。
「それより、あの羅刹はなんだったの? あの後どうなった? と言うか、ゼロはこんなときにどこ行ったの?」
「あの、それは……」
言いよどむ千鶴ちゃんが、総司君のほうに視線をやると。
「千鶴ちゃんは外してくれる?」
「は、はい…」
総司君が千鶴ちゃんを部屋から出してしまった。
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