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月神香耶side



ある日の夜。
今日はちゃんと自室で眠れる日。

「……役立たずの子供、かあ」

なのに、隣の布団の千鶴ちゃんが、溜息ばっかりついてる。

「なんか言われたの? 総司君に」

「えっ!? な、なんで分かったん……あ」

千鶴ちゃんは、にやりと笑う私の顔を見て、盛大に口を滑らせたことを自覚したようだ。

「君が今日、一日中私の顔を見てはそわそわしてた理由を教えてくれるのかなぁ」

「あぅ…」

そして、かっくりと肩を落とした。



千鶴ちゃんは、昼間の巡察での出来事を話してくれた。

「あははは、まぁ、君の気持ちはわかるけど。総司君なりに、千鶴ちゃんのことを心配してるってことなんじゃない?」

「そ、そうでしょうか……」

「薫君、元気そうだった?」

「……はい」

巡察中に薫君を見つけた千鶴ちゃんは、隊を離れて彼を追いかけていってしまったらしい。
役立たずの子供なんだから行動には注意しろって、お小言をもらったそうだ。

総司君の言い方が手厳しいのはいつものこと。
あいかわらず私と近藤さん意外には、優しくしてやろうという気は無いらしい。

「私が薫君のことを気にしすぎるから、内緒にしておいてって言われたの?」

「あの、その……すみません、香耶さん」

「そんな顔しないでよ。怒ってなんかいないのに」

「沖田さんは、香耶さんが悲しい顔をしないか、無茶なことをしないかって、いつも気にしてらっしゃって…」

「うん」

「私、いつも自分のことで精一杯だから、なんだか恥ずかしいです」

「君はそれでいいんじゃないの? 私だって、自分のことしか考えてないもの」



『ついでに言えば、沖田さんはきっと、やきもちを妬いてるだけですよ。香耶さんが薫さんのことを考えるのが癪なだけです』



「ゼロさん…!?」

暗闇に溶けるように姿を現すゼロ。もう、力を失っていたときのような、毛玉姿じゃなくなって、外に出たくて仕方ないらしい。

「ゼロ。ガールズトークに口を挟まないでよ」

『僕を空気読めないみたいに言わないでくださいよ。緊急事態です』

「え?」

「はい?」



かた…ばたん!

大きな音を立てて、いきなりふすまが部屋に倒れこんでくる。

「なっ!?」

私はとっさに枕もとの“狂桜”を引っつかんで跳ね起きた。

『だから緊急事態だって言ったじゃないですか』

「そんな、もののついでみたいに言わないでください!」

部屋の入り口には、隊士と思われる男が立っていて。
婦女子の部屋に押し入るなんて、と私は鋭く睨みつけた。

「何の用だ! 金か、女か!」

『沖田さんの唾付きを襲おうだなんて、どこの勇者ですか!』

「あんたはちょっと黙っとれ!」

こいつのせいで緊迫感が台無しだよ。のっかる私も私なんだけど。
だが、目の前の隊士の次のせりふに、私たちは驚愕することになる。

「血……血を寄越せ……」

「「!!?」」

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