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月神香耶side



自室に戻る途中、廊下で鉢合わせたのは。

「あ、歳三君」

「てめっ、なんて格好で出歩いてやがんだ!?」

なんて格好……あ、そういえば下着だったな。

「へっくちゅん!!」

「ちょっと来い!」

手を引かれて連れてこられたのは、歳三君がいつも仕事をしている副長室。

「うわぁ、さすがにあったかい」

副長室は極楽だった。
歳三君は男物の着物と帯を貸してくれた。私は帯を適当に前でちょうちょ結びにして着る。

「それで? 総司となんかあったんだな?」

「え。もしかして一君に聞いた?」

「斎藤も絡んでやがんのか……」

「あ」

ごめん一君。
私は、さっきあったことを掻い摘んで話した。

「はぁ。風呂場じゃ鍵かけとけって言ったじゃねえか」

「うん。一君や平助君には悪いことしたと思ってる」

「……そうじゃねえよ。ったく。まあいい。で、それは総司にやられたのか」

「それ? あ!!」


痕!


「鏡見せて! 鏡!!」

鏡を貸してもらった。

「なんじゃこりゃ! 丸見えじゃないか!」

「包帯でも巻いておけばいいだろ」

「余計に大騒ぎになるよ。決めた。私これ消えるまで引きこもる。ここに」

「ここかよ! 冗談じゃねえ、部屋に帰れ!」

「うん、まあ冗談は置いといて」

「おまえな…」

歳三君が、はぁ、と息を吐いた。



「……それにしてもおまえらがまだやってなかったとは」

「うぐっ」

そりゃ、ちょっと前までドクターストップ出てたからね。べつに未通女ってわけじゃないんだけどな。

「それでもめてたのか……何を言われた?」

「え、何を、って」

歳三君は自分の目元をとんとんと示して。

「てめえが泣くなんざよっぽどのことだろ」

涙の痕まで見つけるとは目ざといな。この色男め。

「ええと……総司君が知らないとこで、いろんな男と寝てるだろ、とか」

「あの馬鹿」

あのときの彼の顔を思い出せば、今でもちょっと泣けてくる。
まるで手負いの獣みたいな。傷ついた瞳。

「私が短慮で鈍いから、総司君を傷つけたんだよね…」

「てめえが短慮で鈍いのは否定しねえ。そこは反省しろ。ただな、傷ついたのはてめえだろ。どこまでお人よしなんだ」

「私がお人よし? やだな。私は非情で自分のことばっかり考えてる人間だよ」

「本当にそうなら誰もおまえに惹かれたりしねえよ。そこにいるんだろう。総司」

「……えっ!?」

歳三君の言葉に私が後ろを振り向くと、ふすまがすっと開いた。
そこには憔悴した顔の総司君が立っていて。

「香耶さん……来て」

私の手を優しく引いて立たせ、副長室を出る。
私は総司君に手をひっぱられながら、歳三君を振り返った。

「ありがとう、歳三君」

「愚痴なら聞くって言ったからな」

歳三君は苦笑して、仕方なくだ、なんて手を振っていた。

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