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月神香耶side



湯冷めした。

「くしゅっ、くちゅん!!」

総司君の肩に担がれたまま、可笑しなくしゃみが出る。

私はそのまま総司君の部屋に連れて行かれた。
畳の上に降ろされて、彼は衣類をあさって戻ってきた。

「後ろ向いてて」

「あい」

頭が手ぬぐいで覆われて、わしわしと拭かれる。
それから、腰まである長い髪の水分を丁寧にぬぐっていく。

「なんか……几帳面だね」

「香耶さんだからだよ」

私の髪だから丁寧にしてくれてるってこと?

「私は自分の髪が好きじゃない」

「僕は好きだよ」

「……あ、りがとう」

私は赤く染まった頬を隠すように、襦袢の衿を掻き合わせた。



「寒い?」

「寒いよ。雪の日に襦袢一枚なんだよ」

「そうだよね」



ゆっくり髪を引っ張られて。
私の身体は後ろに倒れる。



「……熱くしてあげようか」

「な」

気づけば組み敷かれていた。



「温め合おうよ」

耳元でささやかれて、温かい息を吹き込まれる。

「んっ」

衿のあわせに総司君の手が忍び込む。



「それとも」

冷たい手が肌を這って、全身がぞくりと粟立った。



「他の男が良かったかな」



総司君が首筋に噛み付いた。

「痛っ…」

肌が裂けるほど強く歯を立てて、きつく吸い上げる。
そしてできた真っ赤な痕が、ゆっくり薄れていくのを、総司君はじっと見つめた。

「ねえ。僕の知らないところで、一君と寝ちゃったの?」

「そんなわけっ…」

それから、もう一個、もう一個と痕を付けて。



痛い。



「僕は君の、たくさんの男の中の一人だった?」



痛い。



「ねえ。あんまり僕をじらさないでよ」



やめてよ。そんな顔。



「痛……もう! 痛い! 痛いって! やめろ! この馬鹿!!」

「………っ」

どんなに傷を負ったって、一日経てば治る身体だから。

「香耶さん……」

総司君は、はっとした表情で私の顔を見た。


私の、頬を伝う、透明の雫。
首に付けられた傷跡。
こんなもの。

「ははっ傑作…」

なんだか、惨めで。


彼の手を振り払い、襦袢の袖で涙を拭う。

「ごめんね」

獣(しし)食った報い、ってか。食ってないけど。
再び伸ばされた総司君の手をすっと避けて、私は立ち上がった。

「香耶……」

「ごめんちょっと…反省してくる」

「反省って…待って、香耶さん!」

そして総司君の部屋を飛び出した。

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