106
月神香耶side
今日は雪が積もったから、雪合戦をしたり雪だるまを作ったりして大いに遊んだ。
メンバーは、千鶴ちゃんと平助君と左之助君、それから新八君……いい大人だって童心に帰ってはしゃいでもいいじゃない。
ちょっと障子に穴を開けたり、歳三君に怒られたりもしちゃったけど、おおむね平和な冬の一日を過ごした。
これは、そんな日の午後の出来事。
「寒いよー。服がぼとぼとで」
「香耶さん、雪の中に突っ込んでいったりするからですよ。でも安心してください! こんなこともあろうかと、湯を沸かしておきました!」
おお。千鶴ちゃんは着々と小姓スキルを上げてるなぁ。
「風邪引かないうちに、早く湯殿へ入ってください」
「ありがとう千鶴ちゃん。いっそ私の嫁になって」
「へ!?」
そんな冗談も交えつつ、湯殿の準備をして。
私はいそいそとお風呂場に向かったのだった。
「はぁぁ〜あったまる」
あったかいお湯に首まで浸かって、湯船の淵に頭をもたげる。
そのまま目を瞑ってうとうとしていると。
がらっ。
脱衣場の戸が開いたようだ。
あ、上がらないと。
鈍くなった頭でそう考える。
ざばざばとお湯から出て、寝ぼけたまま浴室の戸を開けると。
「……あれ?」
「っ!!?」
脱衣場にいた一君が、驚愕してその場から飛びのいた。
襟巻きを取った状態の一君……レアだ。
それにしても、しまったなぁ。
寒くて急いだものだから、戸に心張り棒をかけるの忘れてたんだ。
とりあえず……真っ裸の私はどこを隠したらいい?
その一、胸。
その二、下半身。
正解は……その三、一君の視界。これだ。
私は一君に飛びついた。
「なっ…何をする、香耶!」
「一君の目を塞ごうと思って」
「あんたは俺の目を潰そうとしている!!」
「いっぺん死んで来い」
「目的が変わっているぞ!」
ふたりでもつれ込んで、脱衣場の戸ごと廊下に倒れこんだ。
ばたん、とけたたましい音が響き渡る。
一君は、私がどこも打たないように、私の身体を抱きしめて下敷きになってくれた。
「お、おまえら……なにやってんだ!?」
「平助君。うわぁ間の悪い」
「誤解だっ!!」
たまたまそこに来た平助君。
私が身を起こそうとすると、一君は慌てて私を押さえ付けた。
「ま、待て香耶! せめて何か羽織ってからにしろ」
「そんなこと言われてもなぁ。あ、じゃあ平助君、私の着替え取ってよ」
「どうゆう状況?」
なんとなく事情を察した平助君は、私から目を逸らしながら脱衣場に向かってくれる。
しかし。
「なにやってるの?」
「そ…総司!?」
平助君の首筋に、きらりと光る硬質な刃。
彼の背後にいたのは、抜き身を構えて鋭い殺気を放つ、総司君だった。
「待てっ! 総司、誤解だ」
「香耶さんを放せ」
ひやりと周囲の温度が下がる。
一君は、私の背中に置いていた手を、ぱっと離した。
「あ、あの、総司君。これは私が鍵をかけ忘れたせいで起こった事故で、全部私が……」
総司君の冷たい眼差しが私を見る。
彼は、私を襦袢でぐるぐる巻きにして、肩に担ぎ上げた。
「総…」
「黙ってないと舌噛むよ」
「あ、はい」
なんかこれ…前にもあったような……。
彼はそのまま浴室から背を向けて、すたすたとその場を早足で去る。
顔を上げると、一君と平助君が、複雑な表情で私たちを見送っていた。
← | pagelist | →