ソラノオワリ
  



(ジョジョ4部/岸辺)


僕は名字名前という女が大嫌いだ。はっきり言って、仗助と同じくら……は言いすぎだな。あいつの方が大嫌いだ。何せイカサマのチンチロリンをしているし(あの出る目は絶対可笑しいと今でも思っている)僕から金を巻き上げる気満々だったものな!本当どーしようもない奴だよ。奴とは気が合わないどころじゃない、ハッキリ言って大が付く程嫌いだね。そんなあいつだけど康一君と友達なんだよな。僕の友達なのに、最悪だ。害虫がついているのと同じような物だ。康一君もあんな奴捨てればいいのに、まぁ、何せお人よしだから仕方がない。と、話が逸れたが、僕にはもう一人とても嫌いな女がいる。こいつがまたいけ好かないんだ。



奴の書く恋愛小説とやらは何だか反吐が出そうだ。いつも何かしらのトラブルに見舞われる癖に、結局は男とくっつくハッピーエンドって奴を書いている。脳内が花畑なのだろう。僕は恋愛等したことないけれど、そんな綺麗なものじゃないだろうといつも思う。僕だったらこうするね、って所がいくつもあるし、ぼろも探せば探す程出てくるくらいだ。同時に名前も僕の事が嫌いだ。スプラッターなそれは確かに女には過激かもしれないけれど、僕の漫画の良さをわからないなんて、漫画を読む資格なんて無いね。僕は漫画に命を捧げていると言っても過言じゃないからね。


また、新作を発表したらしい。タイトルはソラノオワリというタイトルで、目立つように新刊コーナーに陳列されていたし、殆どなく成っていたからあいつの人気は嫌だけど認めざるを得ない。僕もそれを一冊だけ買って、パラパラ適当にページを捲って読んでみた。たまにはいい刺激に成るだろうとか、いつも言い訳をしながら読んでいるが。「ん?」僕は名前の書く小説で初めて違和感を覚えた。「なんだ、何かが変だ」ハッピーエンドを売りにしているはずの名前の奴が悲恋を書いたのだ。それも誰も報われない奴で読んでいて不快に成るレベルの物だった。何を考えてこんなもの書いたのだろう。普通にいつも通りお気楽に書いて居りゃ売上だって伸びただろうに。



気に成ると止まらない性分なのは昔からだ。名前の奴に心境の変化でもあったのだろうか?と名前に事前に連絡を入れて名前を呼び付けた。コツコツ、控えめにドアをノックする音で名前と判断して「名前だろう。入れよ」と招き入れた。そして、この間の疑問をぶつけた。「この間のあれは何だ?普通にお気楽なハッピーエンドでも書いてりゃ今回みたいに売り上げも悪くなかっただろう」ハッキリ言って結果を出せなければ駄作だよ。と言えば名前が涙ぐんだ。僕は流石にギョッとしてしまった。女の涙を見るのは少ないからだ。驚いて言葉を失っていたら「恋人に振られたの」と言った。こいつに恋人が居るなんて知らなかった。が、どうせ、ろくでもない男だろうと想像に容易い。



「ふぅん、それであれか。感情で左右されるなんて、小説家として失格なんじゃないのか?」と僕が言うと遂にお天道様が崩れた。ボロボロ涙を窓から差し込む光を照り返しながら零した。「結婚まで誓った仲だったのに、浮気されて、」ああ、だから、あの小説も浮気、不倫とかがテーマだったのか、と全てのピースが当てはまる様に合致した。「漫画が恋人の露伴にはわからないだろうけどね。恋もしたことなさそうだし」言ってくれるじゃあないか。確かに僕は漫画一筋だから、恋とか馬鹿馬鹿しい物したことないけど。「それに、露伴の漫画はいつも残酷よ。それに比べれば私の小説なんて可愛い物よ」「僕の漫画の良さがわからないなんて、本当救えないね」これだから、仗助よりちょっと嫌いなんだ。



だけど、何故だろう。心が酷くざわめいている。まるで、風に揺られるススキのようにざわざわと。動揺しているのだろうか、と落ちつけようと編集者が淹れていった、醒めた珈琲を一気に煽った。「僕は君が嫌いだ」「私も、貴方の書く漫画は嫌いよ」お互いの意見が重なった。「だけど、今回見た小説は一番嫌いだ。君はお気楽なハッピーエンドがお似合いだよ」そう言ってキィキィ軋む椅子が不愉快だと思ったけれど名前が泣きながら笑った。「あら、そう?いつも文句ばかり言われているのに、意外だわ」「君のお花畑な脳みそを見られて反吐が出そうだけどね」口から零れた言葉に苦笑いした。「私も貴方の書くスプラッターで血みどろな漫画は苦手よ」「なら何で見るんだい」「それは逆に私に聞かせてほしいわ」



僕は考えた。大嫌いなこいつの小説を何故僕は貴重な漫画を描く時間を潰してまで読んでいるのだろうと。いつだって、同じような結末で僕の漫画の為に成りそうなことは一つも無いのに。いつだって、真っ先に買いに行っている。そして、恋人が居て、結婚まで誓った男が居たなんて知ってなんだか、心に黒い何かが蟠っている。……嫌いの反対は好きだ。その答えに辿り着いたとき、僕は真っ先に否定した。だけど、心がじんわりと温かくなってきてそこを両の掌で温められているような感覚と同時に鋭い痛みが迸った。これを伝えるのは、難儀である。何せ彼女は浮気されて男に捨てられたばかりで傷心気味だ。何より、僕はやっぱり彼女の書くハッピーエンドの小説は大嫌いだった。でも、今回の不気味な程にドロドロした小説は奴らしくなくてもっと嫌いだ。今はそれだけを伝えよう。

Title Mr.RUSSO

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