離れられないのは僕の方
  



(ジョジョ4部/露伴)


僕には一応いい年だから、まぁ、彼女と言うものが居る。いつも疎かにしているからいつ、別れを切りだされても不思議ではない彼女を持っている。だが、一向に彼女は僕に別れを告げないし、僕自身も居てくれた方が都合がいいから(何せ、僕の好物に、差し入れ、お茶を入れるタイミング全てが完璧なのだ)別れを切り出したことはなかった。最初は、とても奇特な女だと思った。僕の漫画、作品たちは主に男性に支持されていて、女性読者は嫌っている人が大概だった(それもそうか、女という低俗な生き物にはこのリアリティーがわからないものが多いのだスプラッターだの、残虐だの言いたい放題だ。まぁ、素人には勝手に言わせておけばいい、僕の書く物の素晴らしさがわからないなんて、ゴミ同然だ)。



そんな、彼女との出会いはファンレターからだった。普段はあまり見ないのだが、女性の名前だったことに驚いてカッター等の類がついていないのを確認してからペーパーナイフで綺麗に、開けた。嫌がらせかもしれないし、若しかしたら苦情かもしれない、でも僕の興味は尽きなかった。予想に反してそこに認められていたは絶賛の嵐で、僕の書く漫画の素晴らしさを称える物だった。それから、僕はこの女性ファンが気に成った。一体どんな、女が僕の漫画を称えているのだろうと。頭のイカれたキチガイが僕の漫画を読んで犯罪を犯したなんて事も無かったわけではないが女の綺麗な字はとてもキチガイの書く文字には思えなくて僕らしくなく珍しく胸が躍った。何通か、ファンレターをその後も貰ったが僕の言いたいことを全て理解していて、この女に逢いたくなった。そんなある日だった。僕のサインが欲しいと言ってきたのだ。



勿論そんなもの、手紙で書いて渡してしまえばいいと思ったが、僕は実に下らない事を思いついた。「そうだ、僕の自宅に直接、来てもらえばいいじゃないか。そしたら、生の原稿も見せられるし、書いている姿も見せられる一石二鳥どころじゃないぞ」そして、僕はそれを認めた。サインが欲しければ僕の家に来いと。そして、女は丁度の手紙を受け取って三日後程経った、日に尋ねてきた。理由は何となくわかった。僕の原稿が忙しくない時期を狙ってきてくれたのだと。手土産に貰ったケーキは甘さ控えめのチーズケーキと苺タルトが入っていたが、多分、チーズケーキは僕だろうと思った。「先生、台所借りますね。お忙しいでしょうからお仕事はどうぞ続けていてください」と言った。そして、予想通りチーズケーキは僕のだった。紅茶も微糖で僕にピッタリだった。



「で、サインをくれるって本当ですか先生」「ああ。やるよ。丁度今書いている」そう言って見せた。生で見られて卒倒しそうです、と顔を紅潮させて、興奮を抑えきれないと言った所だった。サインの片隅に僕のキャラクターを載せてやればもう興奮して、一生の宝物にして額縁に入れますと宣言したのだった。「そうか。君はとても奇特だな。女で僕の作品が分かる奴はそんなに居ない。寧ろやりすぎだと苦情が来るくらいだ」そう思うととても彼女に興味がわいてきて、僕は気が付いたらヘブンズ・ドアーを使っていた。パラパラページが換気の為に開けていた窓の風によって捲れていく。彼女は珍しい事にスプラッターの類が大好きな女だったようだ。次のページをめくる。僕の漫画の事が書いてあった。リアリティーがあって、とても面白い。語彙力が無いのでとても言えないが好きで堪らない作風だ。絵も私好みで、ああ、どうしよう。ファンレター送ろうかな。成る程、それで語彙力のないそれでファンレターを送ったのかと納得した。だが、特に興味の惹かれる様な女ではなかった。物語の主人公たるべきものこんな人物では駄目なのだ。



「あれ?私いつの間に……?」ソファーに寝かせておいた所目を醒ましたようで何処か不思議そうに首を傾げていた。仕草が小動物見たいで笑ってしまいそうに成ってしまった。僕は漫画にもこだわっているが家の内装も業者に頼んでいるので、ソファーの心地は悪くなかったと思っている。それに、僕もたまにそこで仮眠しているし。「ああ。僕のサインが余程嬉しかったのか気絶したんだよ」「本当ですか?ご迷惑をおかけしてしまいすみませんでした。では、サイン嬉しかったです。有難うございました。また、ファンレター送ります」そう言ったが、僕はなんか惜しくなった。僕の漫画を此処まで理解してくれているファンはあまりいない。「良かったら、また僕の家に来ないか?忙しい時でなければ相手をしてやってもいい」そう言うと目がパァと輝いた。



告白をしたのは確か僕の方からだったと思う。彼女は助手としてはとても優秀だったから、使えると思って、告白したのだった。名前は直ぐに返事をくれた。僕と付き合うと。だが、今直面しているのは“お別れ”だ。「私はただの一ファンに戻りたいです。露伴先生は確かに素晴らしいけれど恋人としては最低です」引き留めようとは思わなかった。お別れに僕は了承して晴れて独り身に成ったのだった。酷薄だと罵られるかもしれないが僕は彼女を助手以上に見ていなかったのだろう。特に結婚も考えずにずるずると三年も続けてしまったのにも非があったのかもしれないが、仕方がなかった。僕の第一優先は、漫画に変わりがなく彼女はいつだって二番か、それ以下だったからだ。



「おい、そろそろ、喉が渇いt……」全て言いかけた所で気が付いた。ああ。別れたんだった。カチカチ、時計の音がやけに耳障りだった。原稿の進み具合も遅れている気がする。なんだか、最近は上手くいかない。新しい編集者は僕の事をキチガイでも見るかのような目で見て来るし、本当に不愉快だったので直ぐに外した。ああ、名前の様に怜悧で僕の芸術を理解してくれる奴が担当だったらなと思って、何でまた名前の名前が此処で出てくるんだと自分を責めた。別れようと言ったことに同意したのは僕の方じゃないか!「腹が減ったな」軽い軽食でも食べようとサンドウィッチを作る。料理は簡単な物でいい。腹が満たされればそれで十分で、作業にも似ていた。パク、一口齧りついて僕は酷く不味く感じてしまって、それ以上食が進まず残してしまった。そういえば、名前の料理はいつだって、僕の健康面を気にしたものであって、いつだって温かくて軽食ですら美味しかった。



僕は電話をかけた。トゥルルルルル、トゥルルルルル。きっと今頃に成って君の有難みを理解してかけてきた僕だと知っていたのだろう。だから、出なかった。これは憶測だったがきっと、間違いではないだろう。僕は薄手の上着を羽織って家から出た。久々に日光を浴びた気がして少し目が眩んだ。タクシーを途中で拾って名前の家の近くで降りた。「ふぅ、居るかな……」ピンポーン、チャイムを一度鳴らす。それだけで、パタパタと駆けてくる音がして、ホッとした僕が居た。そして、チェーン越しに「どちら様……って、先生?!」僕だと知って扉を閉めようとしたのを見て、僕は足を扉の間に挟んでそれを阻止した。「今更何の用ですか!私を蔑にして!私には用は無いですよ!」「僕にはある!僕には君が必要だ。物を食べても美味しくない、いつも出される紅茶や茶が恋しい」「そんなの家政婦でも雇えばいいじゃないですか!先生のお金だったらいくらでも」



「君じゃなければ駄目なんだ。此処で、何をすれば許して貰える?僕は、君が好きだ。君が居なくなって初めて気が付いたんだ。君の存在の大きさに!」ジャラ、チェーンの外れる音がした。そして、僕は初めて抱擁と言うものをされたのだった。「先生の鈍感」「その先生って言うのもやめないか?僕は露伴だ。君は一度だって僕の名前を呼んだことが無い」そう言うと照れ臭そうに「露伴」と呼んだ。瞬間、胸がキュウと縮こまるようなじんわり温かな感情が流れ込んできた。平凡な女だとは今でも思うが僕にとってはどうしようもなく愛しい女に違いなかったのだ。

Title Mr.RUSSO

戻る