日常に潜む非日常
  



(牧場物語/ティグレ)


ルデゥスと打ちあった。チャンバラに使う大ぶりな、棒は当たったら痛いだろうなと思いながらも打ち合った。ルデゥスは女相手に……等と呟いていたがそんなことは関係ない、私だって牧場経営をしているから体力には自信があるのだ。それにアルマちゃんたってのお願いなのだから聞かないわけにはいかない。「隙あり!」女だからと甘く見ていたのだろう、若しくは少し手を抜いていたのだろう。隙を見せたルデゥスの棒を叩き落とした。カランと白いサンゴの死骸の砂浜にそれは、吸い込まれるように落ちて行った。「ア!」「ルデゥスー!それでも格好イイ〜!」アルマちゃんはそれでもルデゥスを称えた。一人、兄の様に慕っているティグレ君を除いて。ティグレ君に近づくと「……」無言の威圧を受けた。



「お、怒っているの?」「イエ、怒って等いませんヨ」だが、端々に棘のようなものをオブラートに包み切れていないというか、そういう所がまだ子供っぽくて可愛いと言うか。ただ、敬愛するルデゥスを負かしてしまって、私に怒りを感じてしまうのは仕方ないかと苦笑していたら。「怪我ハ?ありませんカ?」と私の方を急に心配して来るので、私は何故かと問うた。明らかに勝ったのは私だし、怪我を心配しなければ成らないのはルデゥスの方だ。だけど、ティグレ君はルデゥスは強いですから、心配いりません。といって、ルデゥスの方に行くことは無かった。それどころか、私の体の心配ばかりしていて、何故だかくすぐったく思った。「もう、大丈夫だって。私だって牧場主なんだし、怪我くらいするよ、動物相手にね」と茶目っ気に笑って見せたが、ティグレ君の顔が強張った。



「!貴女って言う人ハ!無茶はしないでくだサイ!」そういって、普通の女性よりもずっと、逞しいであろう私の腕を探り始めた。そして、今日毛刈りばさみで少し切ってしまった手を見られてティグレの顔が明らかに強張った。そして、私の先程のチャンバラで汚れているであろう指先を、何の躊躇も無く口に含んだ。ピチャリ、生暖かい舌が指先を這いずりまわる。「ン、」「わひゃっ?!ティグレ君?!汚いよ!」「ム、汚くありませン」そうういって、最後の仕上げと言わんばかりに口を窄めて吸い上げたあとに口を離した。「貴方は女性、なんですカラ。オレが打ち合いをするって成った時どれほど心配したカ!」ああ、そこで全ての謎が紐解けたのだ。「若しかして……ルデゥスと打ち合いしたことを怒っていたの?」「怒ってなんテ……、うぅン、はい、そうでス。貴女が怪我をするト思うと耐えられなかったんでス」ああ、何て愛おしいんだろう。



Title デコヤ

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