喜多




喜多君は頭がいいけれどそれを衒ったことはないし、他人を馬鹿にしたり見下したりしないとても、丁寧な物腰で常に彼女である私を気遣ってくれる。七夕の日は一緒に過ごそう、部活はその日は早めに切り上げるからって朗らかに笑んでくれた。「待ったか?」切れ長の目を、やや伏せて喜多君が待ち合わせ場所に来た。「全然」それどころか、約束時間は過ぎていない。時間前集合、流石喜多君。時間にはきちんとしている(勿論、他の面でもいろいろきちんとしているけれども)。



今日は天体観測をしようと約束していた日であった。河川敷で空を見上げた。雲一つない、この日を祝福するかのような空模様だ。いくつもの星がちりばめられていて、チカチカ闇の中で群れを成しており一つ一つその存在を主張していた。「綺麗だなー、雲も全くないし」喜多君がほうと溜息に似た、息をついて感動を伝えてきた。「そうだね」星に関してはあまり詳しくはないのだけど、この美しさには息をのんでしまう。天河原にあるプラネタリウムだって綺麗だと思うけれどやはり、人工物には無い、自然の美しさを持っている。「……えーと、ベガが織姫で……アルタイルが彦星だったかな」多分、あれ……と一際光っている、星を指差した。喜多君にしては自信のなさそうな口ぶりだった。



「……うぅ、この日の為に結構、勉強してきたんだけどな」冷えた体を縮こまらせながら、身を寄せた。「え、そうなの?」「ああ。やっぱり俺も名前に格好悪い所見せたくないしな。でも、天文学の勉強はあまり得意じゃない」喜多君にも苦手な分野があったんだと、人間らしい一面を垣間見た気がした。喜多君は何に関しても完璧な所があったから、てっきりなんでも得意なのだと思っていたのだ。「でも、赤点は取ったことないんでしょ?」「……今のところは。これからはわからないな、」沢山ちりばめられた星の一つ一つに名前があって、面白いな。見るだけならば俺も好きなんだけどなと苦笑した。



「こうやって、名前とのんびり天体観測をしていると、今日の疲れも癒えるな」「大袈裟だよ」私には勿体ないくらいにできた彼なのに。「いや、今日も大変だったよ。西野空が外周の途中で忽然と姿を消すし」「あー……」西野空君は喜多君とは対照的にどちらかというとルーズだ。いや、西野空君だけじゃない星降君や隼総君だって喜多君に比べれば適当だ。「その癖、監督を恐れているんだ。怖いなら、サボらなければいいのに。なんとか見つけたんだけど、裏庭で涼んでいたんだ。監督に怒られるとわかるだろうに、あいつの心理は理解できないな」無理な練習は組んでいないはずなのだけど……と眉間に深く皺を刻んだ。



冷えた風に身震いをした後に、身を固くした。夜になると急に冷え込む。私が身震いをしたことに気が付いたのか喜多君が薄手の上着を貸してくれた。有難く受け取って着込む。「夜は冷え込むな。もう、帰ろうか」まだ、時間にして一時間も経っていない。これでお別れって少し寂しい、それでも口や表情には出さなかった。今日も散々西野空君に困らされていたようだし、これ以上喜多君を困らせるのだけは避けたい。「……あ、あのさ、」喜多君が言いにくそうな、昂ぶった様子で喋る。「……俺の、家に来ないか?」「へ?」真っ赤になった喜多君によからぬ妄想が頭を過った。そのせいか、喜多君につられて頬が痛いほどに熱くなった。いやいやいや、喜多君に限ってそれは無いと打ち消したところで喜多君が弁明した。「ち、違う。あ、違わないけど……その、もう少し名前と居たいなって」「うん」同じ気持ちで居てくれたことに、口元が緩んだ。星たちが私たちを鳥瞰する中で、しっかりと手を結んだ。



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