龍崎




雨が降っている。ザァザァ、湿った空気はいつもよりも重たい気がした。皇児が今日は止みそうにないな、って諦めた様に一度窓のガラスに触れて空を見上げた。晴れたら、一緒に天体観測でもしようかって話をしていただけに、残念だなと項垂れた。皇児がソファーに体を倒して、私も来るように呼びつけた。呼ばれたので、皇児の隣に腰を浅くかけると皇児に抱きすくめられた。「落ち込んでいるな」「ん、なんか気が滅入るよね」否定はしてこなかった。「来年もあるだろ?再来年も」どこぞの学校だったらプラネタリウムなんて洒落たものがあるから、乗り込むって手もあるけれど、要塞のような帝国にはそんな洒落たものは存在しない。(……私も帝国の学生ではあるけれどそんなもの見たことが無いから恐らく無い)



「……催涙雨、っていうそうだな」皇児がふいに呟いた。あまり聞き馴染みのない言葉だったのでつい聞き返してしまった。ああ、駄目だ。皇児よりも知識の無さが露呈してしまっている。「催涙雨?」だけど、皇児は聞き返したことに対して特に見下した様子を見せることも無く普通に切り返した。「ああ、そうだ。雨が降ると、天の川の水かさが増して逢えないらしい。七夕に降る雨は催涙雨だ」「へぇ、そうなんだ。じゃあ今頃、泣いているね」年に一度を雨に邪魔されるのはえげつない。そもそも一年に一回って遠距離にも程があるし、気持ちとか薄れたりしないのかなぁ。なんて物語に要らない心配をかけてしまう。「そんなに落ち込むなよ。あんたがそういう顔しているとなんか嫌だ。天体観測がしたいなら、来年も出来るし、プラネタリウムとかでよければ連れて行く」「有難う」



雨の音が聞こえる。そこらじゅうに雨の音が広がっている。自然の音色に耳を傾けていたら皇児が暗くなってきた部屋に明かりをともした。薄闇に、ほの白く浮かんでいたクリーム色の髪の毛と整った顔が、蛍光灯の元に晒された。「……ああ、それにしても一年間か。雨が降れば逢えないなんて随分と酷いものだな。下手したら何年も逢えないなんて状況も有りえなくもないわけだろ。俺なら一年も名前に逢えないとなると耐えられないな」「たまに皇児ってどうしようもなく気恥ずかしい言葉を吐くよね。あとロマンチスト」「そうか?」無自覚の言葉だったのかと、逆に恐ろしく思った。(天然ものだ)普段は他者を見下したように、鼻で笑ったり相手を小ばかにしているのだが、こういう一面を見ると皇児の本質が霞みかかる。



「サッカー部って最近、休みとかあるの?」「いや、普段通りだな。御門の奴が変に追加とかしなければだけどな」「ああ……」御門先輩は他人にも自分にも厳しい人だから、恐らく皇児に対してもそうなのだろう。時たま優しげな表情を見せるが基本的には、険しい。「じゃあ、無理なんじゃないの?そんな遊びに行くなんて」きっと、私情……特にこういう関係で抜け出そうとすると御門先輩怒ると思う。勿論、私に対してと言うよりも、皇児に対してであって、罰が与えられるのも恐らく皇児である。「……覚悟の上だろ。そうでもしなきゃ、可愛い彼女と遊ぶ機会なんて中々ないぞ。遅くまで部活で、時間までも制限されて」名前とデートする時間を作るのが難しい。あー、俺可哀想。口を尖らせてぼやいた。



「何なら、明日でも行くか?」皇児が吐息と共に耳元へ囁きかけた。「怒られるよ」「御門にか。そりゃいいな。あいつにだって彼女が出来れば、きっと俺みたいな考えも理解できるさ」部活をサボる気満々の様で、嬉々とした様子で明日の予定を組み立て始める皇児の顔は生き生きとしている。たまには息抜きも必要か、と苦笑して一緒に考え始めた。大丈夫、私たちには時間はたっぷりある。織姫と彦星はまだ、遠くの空で泣いている。



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