隼総




なんでこんなことになるんだよぉ。僕だって毎回毎回止めてあげているけれどさ、これ楽な事じゃないんだよぉ?名前も、隼総もその辺ちゃんとわかっているぅ〜?僕が名前の体を押さえつけると隼総が騒いだのを見て僕は溜息を吐きたくなった。僕を振り回すなんて、二人ともちょっと凄いなぁと思うんだよね。その分僕は喜多に迷惑かけるからいいけどぉ。あ、それじゃ喜多だけが疲れちゃうね。たまには星降にも迷惑かけてみようかなぁ。「離してよ〜!」「ほらぁ、早く帰るよぉ。なんで、この真ん中で別れを惜しむかなぁ!」大方この、川を隔てて一年と二年の校舎が離れているせいだろうけれどね!そんなのわかっているよぉ!「離せ!馬鹿西野空!俺の名前に触るんじゃねぇ!」「煩いよ!ほらぁ、喜多も隼総を引きはがしてよぉ!」「わかっている!でも俺たちは化身なんか出されたら対抗できないぞ!」隼総が化身と言う単語を聞いて悪い顔をした。喜多、余計な事言ったんじゃん?



因みに現状は、僕が名前を押さえつけて、喜多が隼総を押さえつけている状態。とっても大変。確かに喜多の言うように化身なんて出されたら喜多だって止められないだろうしぃ。「何なのぉ!名前たちみたいのを、バッカプルっていうんだよぉ!このバカップルぅ!」「うえーん、隼総〜!」名前が隼総に手を伸ばした。「くっ、……キャプテン許せ。愛の為に」「なっ、お、おい?」まさか、と嫌な予感が僕に過った時には遅く、隼総の背後に猛禽類みたいな見た目の化身、ファルコが出現して喜多を容赦なくぶっとばした。流石に地面は申し訳ないと思ったのか川に向けてだが。バッシャンと水面を大きなものがたたく音が聞こえたと思ったら、遅れて水しぶきがかかった。「……こ、こいつぅ、喜多をぶっとばしたぁ!」次は僕か?!「はぁっ、はぁっ、」肩で大きく息をする隼総の化身がフッと消えた。応援を呼びたい気持ちはやまやまなのだが、今日星降は「多分、今日引きはがすの至難の業だから嫌だ」と言って来てくれなかったんだよなぁ。喜多は川からザバザバ上がってくると濡れた制服を絞って半泣きになっていた。「……うぅ、今日一日ジャージか」名前を抑える役だったのは正解か……。



「名前来い!」逃げるぞ!と手を差し伸べた。僕は名前を抑え込んで阻止した。「西野空が離さないー!」「絶対に離さないからぁ!」「……まるで、織姫と彦星だな。この川は差し詰め天の川といったところか」突き落とされたけど……ははっ、と遠い目で喜多がびしょ濡れになってしまった髪の毛を下ろして絞りながら冷静に言い放った。「……こいつら何なのぉ?」もうすぐ、鐘がなっちゃうよぉ。僕もこのままだと遅刻で同罪になっちゃう……と懸念したところで喜多に合図を送ると喜多もそろそろきついな、と眉を下げた。「俺たちだけでも」諦めて教室に戻るか?と言いかけたところで、喜多が青ざめながら口を塞いだ。隼総も固まっていて動けないでいる。足が地面に縫い付けられたように。僕も嫌な予感がしながらも地面に女性のシルエットが出来た方向へ、恐る恐る振り返る。



「……貴方たち何をしているの?」今、この世で一番恐れている人物が立っていた。うへ。「か、監督。あ、いや、その僕らはぁ隼総たちを引きはがして」引き攣る口元に必死で言い訳をする喜多と僕。勿論僕たちは悪くはないのだけど。隼総と名前は固まっている。「……ふふ。早くしないと遅れるわよ。……それとも、隼総君は私の授業をサボるつもりかしら。こんなところで化身も使っちゃって……」柔和な瞳が隼総を捕えた。びくっ!と大袈裟な程に体を跳ねさせて「とんでもない!」と髪が乱れるのも気にせずに首を何度も振った。「……早く、教室へ戻りなさい。名前もサボったらどうなるか、わかるわよね?」「ひっ!は、はい!」どうやら、監督は原因が二人だということを理解していたようで今回は僕たちに触れなかった。僕たちも監督の逆鱗に触れないように、とすごすごと教室へ名前をつれて戻って行った。「大体、天の川のあれだとしてもさぁ、授業が終わったら会えるじゃん」「うぅ、うっ、そうだけど……隼総大丈夫かなぁ」ああ、監督に連れていかれたもんねぇ。ま、死にはしないでしょ。多分。



そんなおとぎ話みたいに、一年に一回じゃないんだからなんでそんなに深刻になるのかわからないよぉ。……こうはなりたくないよなぁ、こうは。



 戻る 


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -