星降




香宮夜ちゃんが、薄い黄色やピンク色に細く刻まれた短冊を持ってきてくれた。あと小さめの笹。普段は行事ごと面倒くさいと言いたげな雰囲気すら醸し出しているというのに、数日前の下校途中で香宮夜ちゃんに「もうすぐ、七夕だね」と振ってみたら、意外にも乗ってくれて「そうだな、その日は俺と過ごそうよ」って言ってくれた。そして、香宮夜ちゃんを待っていたら、笹やら何やら用意してくれていたようで感動を覚えた。「昔を思い出すな。お前、俺の事を女だとか思っていて短冊に「香宮夜ちゃんが月に帰りませんように」とか書くんだもん。俺の夢なのに全く。かぐや姫じゃないんだぞ」「根に持つなぁ〜。何年前の話?それ」「……小学一年の頃だな」「記憶力抜群」



とても身に覚えのある話で、当然と言わんばかりに暫く香宮夜ちゃんは怒っていて、私は嫌われたーと泣いた記憶がある。結局香宮夜ちゃんが「怒って悪かった」なんて私の方が悪いのに謝ってきてくれたのだ。そして、今も当時の名残でちゃん付けで呼んでいる。が、たまに怒られる。姫と言ったらどすのきいた声で「命は大事にした方がいいんじゃない?」なんて、観月監督を彷彿とさせる穏やかな笑顔を浮かべて、寿命が縮んだ気がした。もう二度と冗談でも言わない。コマンド、命を大事に。



「今年は何て書こうかな〜」「……変なこと書かないなら、好きにすれば?」変な事とは恐らく前後の会話からして、例のあれだろうと思い、やらないよ!と返した。怒られることは必須だし。自分から敢えて危険を冒そうだなんて思わない。「ま、いいけどね」短冊だけではさびしいので、色紙をハサミで切り刻んで飾りも作っていたら、香宮夜ちゃんが鼻で笑った。確かに不格好だけど鼻で笑うことはないのにとむっとした。「相変わらず不器用」「そんなに言うなら香宮夜ちゃんも作ればいいじゃん」馬鹿にされた感がありありと伝わってきて、香宮夜にも予備のハサミと色紙を押し付けた。香宮夜ちゃんは「いいよ」と軽く応答して、器用にハサミを使ってチョキチョキ色紙を切りそろえる。手先を見るだけで既に私なんかよりもうまそうだな、とは思ったけど悔しくて何も言わなかった。



完成された飾りは、私の物に比べて出来がよく作品という言葉が似合う気がした。「ほらね」「……うま」口からついて出た感嘆符に気を良くした様で、更にチョキチョキとハサミで形作っていく。飾り付けられる量も知れているので、ある程度で作る手を止めた。「もういいかな。あんまり作っても、仕方ないし。願い事、書くでしょ」折角用意したのだし、名前の分ねと束になっている短冊と、筆記用具をくれた。願い事か……まだ、何も考えていなかった。うーん、



「……まだ書けないの?俺もう三つは書いたんだけど」「えー、待ってくれてもいいじゃん」「……待つけど、お腹減ってきた」ほらほら、早くしてよ。急かすように私の背を一度トンと叩いて、促した。香宮夜ちゃんのおなか減ったという言葉に急がなきゃなと思って丁寧に、清書もせずにシャーペンで「香宮夜が月に行けますように」って書いた。香宮夜ちゃんがずっとそれを覗き込んでいて、笑った。「何それ。昔の罪滅ぼしのつもり?」「そうじゃないけど、香宮夜ちゃんは?三つも書いたんでしょ?見せてよ」「いいよ。もう括り付けてあるから勝手に見て。俺、お腹すいたから何か持ってくる。名前も食べるでしょ」それきり、台所へ行ってしまった。少々の後ろめたさと共に、括りつけられて風に揺れている、紙切れの一枚を手に取った。細かい文字でびっしりと書いてあった。「隼総が唐揚げを食べられますように。西野空が監督にどつかれますように。喜多のデコが広くなりますように」「……ぷっ、本当仲いいなあ、サッカー部員は」微笑ましく思ったところで、また風に晒して今度は香宮夜ちゃんと同じ髪の色の短冊を手に取った。



「……か、か、香宮夜ちゃん?!これ何?!」内容を理解して私は慌てて、短冊を切り離した。なんてものを飾るんだ!信じられない!と叫べば台所から、顔をひょっこりと出して薄ら笑った。「ん?あー、見ちゃった?だって、名前ガード固いんだもの。神頼みレベルだけど、いいでしょ?」さらりと流すように軽く笑って、素麺を乗せたお盆をテーブルに置いた。「……変態、イケメンアップは飾りか」「……男は皆、変態だろ」



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