西野空




生憎の、空模様。鼠色の雲が敷き詰められていて星空を覆い尽くしている。それは月の光すらも食いつぶしている。折角、宵一と一緒に見ようねと約束していたのに残念と溜息を吐けば宵一が「そうだねぇ……」と一緒になって空を見上げた。宵一が見上げたところで、月の光をも通さない程の厚い雲が覆っている。一緒になって溜息を吐いた。「名前は、楽しみだった?僕と一緒に天体観測をするの」催涙雨ではないだけましだけど、やっぱり楽しみにしていたのと、残念だったのとで宵一に向けて素直に嘘偽りなく「うん、」と呟いた。宵一が「うーん」と唸りながら、携帯を手に取る。もう時刻は夜と言ってもいい時刻である。



やがて、考えが纏まったのか薄手の上着に袖を通した。「今から見に行こうかぁ、天の川をさ」「え、でも」私が何処へ?と困惑していることを告げると宵一が口元だけで軽く笑ってほらほら、と私にも上着をよこした。取り敢えず促されるままに、袖を通した。宵一が手を絡めた。「さあ、行こうか。大丈夫、任せてよ。彼女をがっかりさせるほど僕は廃れていないよぉ」よくわからないけれど、宵一には何か考えがあるようなので私は宵一に任せることにした。サンダルに足を引っ掻けて、外へ出ると外の空気に身を包まれた。「暗いからねぇ、足元気を付けてねぇ」なんて、いつになく紳士的に私の手を引く。



「でねぇ、喜多ってば、それくらいで真っ赤になって本当ウケるんだよぉ」何気ない会話を道中でしながら徐々に、天河原がある方面へ向かっていることに気が付いた。普段の通学路を二人して辿っているからだった。相槌を一つついてそのことに触れてみた。「あのさ、こっち天河原の方面だよね」「へぇ。名前流石だねぇ。うん、そうだよぉ」ほら、ね。そう言って立ち止まると天河原の校門が見えてきた。校門は固く閉ざされている。宵一がある程度想定していたのか、柵を見上げた。「あー。乗り越えるかぁ、名前登れるぅ?」宵一は慣れた、手つきで柵を乗り越えた。私は危なっかしく、足をかけてなんとか宵一に手を貸してもらいながら乗り越えた。「えへへ、あとはー。見回りの人とかいないといいけどぉ」さ。行こうか。と辺りを警戒しながら鉄さびで少し汚れた手を握った。



後者の方面を逸れて、天文台とプラネタリウムのある方面へこそこそと物音を立てないように歩いていく。鍵は幸いかかっておらず、私たちの侵入を簡単に許した。中はがらんと暗く静まり返っている。「ちょっと、待っていてねぇ。えーと、これかな?」宵一が真剣な様子で暗がりの中、天体投影機を弄っている。本来、高い物なので生徒は弄ってはいけないのだが大丈夫だろうか。そんな心配をよそに、宵一が何かのボタンを押した瞬間にパッと、天井がまばゆい光を放った。それはまるで、空に浮かぶ星そのものである。天の川は見当たらなかったが宵一が弄っているうちに天の川が天井に浮かび上がった。「お、これだぁ」「宵一、凄い!」私が褒めると宵一が「先生の見よう見まねだよぉ」と照れたように笑って私の隣に腰を下ろした。一度、天井から目を離して宵一を視界に入れる。きっと、がっかりしていた私の為にしてくれたのだ。「宵一、有難う」私が嬉しくて笑いかけると宵一もつられたように笑いかけた。「うん、名前が笑ってくれてよかったぁ。もうしばらく見て行こうかぁ」手の熱を共有しながら、一緒になって天井を見上げた。



 戻る 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -