松野




「ごめん、別れよう松野」
付き合って、数ヶ月の空介に嘘を吐いた。空介は結構、鋭いから多分あっさり看破されるだろうと踏んでいた。だが、予想に反して空介は驚き怯んだようだった。そして、それはすぐに怒気を帯びたものに変わった。
「……何、それ。」
いつもより数段ほど低い声のトーンに体が強張った。喧嘩だって、勿論したことあるけれど此処まで怒った空介を私は知らなかった。思えば、どちらかというと飄々している空介。
「僕のことなんて、どうでもよかったんだ?」
思いっきり地雷ワードを踏んだことに、私は冷や汗をかいていた。気持ちのいいものではない。ほんの冗談のつもりだったのに、段々大事になってきていることに私は、気がついていた。じりじりと距離を縮めてくる。自室で吐いた嘘、逃げ場なんて勿論ありはしない。トン、と壁に手をついて追い詰められた。目と鼻のすぐ先に、空介の辛そうな顔。口元が引き攣った。
「ねぇ、答えてくれない?僕と別れる理由をさ」



瞳を逸らすことができなかった。無言でいたら瞳が三日月のように細められた。
「ふぅーん……答えられない?」
此処まで本気にされるとは思っていなかった。最早、涙が出てきそうだ。このまま本気にされて、別れることになったらどうしよう。とか頭の中でそんな最悪の結末が巡っていた。ほんの軽い冗談のつもりだったのに……!とはいえ、時既に遅し……。ギュッと目を瞑って、謝罪を繰り返した。別れたくない。
「ごめ、空介……っ。ごめん……。」


何度かそれを繰り返していたら、ペチッと額に鈍い痛みを感じた。段々とそれが痛みに熱を帯びていく。私が額を押さえて、空介を見たら空介がケラケラと笑っていた。
「あっはは!僕が騙されるとでも思ったの?名前って、演技へただからすぐにわかったよ」
いつもの空介が目の前にいて、今まで全身を支えていた足から力が抜けてその場に座り込んだ。すぐに私が騙した、と思っていたのに私は空介に踊らされていただけだったと気がついた。
「……空介、凄く怖かったんだけど……?」
「うん?予想以上の反応、有難う。でも自業自得だね」
先ほどでこピンされたであろう額を軽く、空介が一度なぞりながら隣に腰を下ろした。もう、来年からはしないと誓った。怖い思いはもうしたくない。




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