第三夜




ギィイ、何かが聞こえた。それから若い兵士の舌打ち。「チッ、名前の野郎寝てやがるぜ。全く、飯を持ってくる身にも成って欲しい物だぜ」牢が開く音だ、と瞬時に判断する。先程また夢を見ていたのか、いつの間に?体は疲労困憊だが、この幸運を逃しちゃいけない。相手は油断している。丸腰の女、しかも手を縛られている状態。私は奴が近づいて私の事を確認するのを待った。そして、顔を覗きこむのを薄目で確認した瞬間に頭突きを喰らわせて、相手の顔面を攻撃した。鼻からはポタポタ鮮血が流れ出てきている。持ってきた粗末な、飯は床に見事に散らばった。「舐めるなよ!」「このアマァ!!」敵が怒っているが此処は仲間を呼ばれては負ける。何とか、怯んでいるうちに!回し蹴りを決める。相手の鳩尾に入って、男は悶絶した。今だ!と牢から脱出した!



くそ。完全に迷子だ、しかも敵から身を隠しながらの隠密行動、何ればれても不思議じゃない。……畜生、いちかばちかだ!近くの扉に体当たりをかまして中に入る。中には誰も居ない事を願ったが、残念なことに敵将。しかも、この左腕の傷を作った、張本人が寝台で寛いでいたのだから、この世の終わりを感じてしまった。「か、甘寧……」「なっ……!チッ、やっぱり一筋縄ではいかないか。というか、甘く見ていた、まさか牢から脱出するとはな」甘寧は何処か嬉しそうに顔を綻ばせていた。それは私が突飛な行動をするから面白がっていると言った所だろう。だが、最悪だ。最悪もいい所だろう。甘寧が私の肩を強く掴んでこちらに引きこんだ。



「おもしれぇな、お前。本当に」甘寧の目は笑っていた。心から私の突拍子の無い行動を喜んでいると言った感じだ。甘寧が立ち上がって、扉を閉める。だが、バタバタと忙しない足音がして扉を叩いた。先程の兵士が、きっと他の兵士たちにも伝え、今や知らないものはいないと言った所であろう。「甘将軍、先程、名前が脱走しました」「おいおい、てめぇの尻拭いもできねェってか?」甘寧の声は酷く冷たい鋭利な刃の様であった。相手の扉越しの兵士も殺気を感じ取っているようだ。……私を引き渡すのだろうかと思ったが甘寧は「おい、俺は知らねェ。お前らが責任を取れ。万が一俺が見つけたら俺の手柄にする。手前らの尻拭いなんて御免だぜ!わかったら休んでいる俺を叩き起こすんじゃねェぞ!」「ハッ。失礼致します!」兵の足音、気配が途絶えた。



「さぁて、名前」扉から離れ寝台に戻ってきた甘寧の表情は逆光で伺えなかった。「……うっ、どうせ、お前の手柄にするんだろう。知っている」「なわけねぇだろ。俺は退屈しているんだ。お前おもしれぇ話くらいできるだろう?今まで戦ってきた中で強かった相手とかよぉ……」目を輝かせた甘寧が私に話を強請った。私は少しだけ考える。……強かったと言えば、泣く子も黙る遼来来……「張遼と刃を交えた時は……、死ぬと思ったが、奇襲をかけて、返り討ちにしたことは今でも胸がすっとするな」甘寧が興味深そうに聞き入っている。「へぇ、張遼とやりあったのか。こいつぁ益々、おもしれぇ。続けろ」そう言った瞬間にまた、眠気がやってきた。そのまま倒れ込むように寝台に吸い込まれていった。


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