第二夜




鍛錬所までやってきたが、兵たちは居らず、私たちだけの貸し切りだった。そこで、剣を合わせる。チリリ、チリ。耳に良く馴染む。先程までの悪夢を打ち払うように、剣を振るった。鍔迫り合いに成る。夢が一瞬繋がる。だけど、あの時とは違う。この剣は先程の本物ではなく、練習用にと刃を潰してあるものだ。甘寧も同じだ。「ははっ、やっぱり俺の嫁はつえーな!」「興覇こそ……」汗が噴き出る。不意にぼんやりとした意識の中、脳内に声が響いた。「おい、……おい」一瞬瞬きをしただけなのに、左腕に鈍い痛みが走った。ペチペチ、私の頬を打っていたのは先程まで打ち合っていた甘寧だった。手が縛られているらしい。どうやら、捕虜……として捕まったようだ。



「っつたく、張角の奴。妙な妖術使うもんだぜ。行き成り眠りこけちまうんだもんな。ま、殺せって言われたけど捕虜の方が良いよなァ?こっちに下れば、お前の身の安全は保障するぜ?一緒に新しい世を作ろうじゃねェか」下卑た笑いにチリチリ耳障りな鈴の音。しまった、先程の幸福な未来の様な世界は妖術か。……痛みが酷い。「あー。止血しねぇとな」そういって、布を乱暴に裂いてきつく巻き付けた。血がしみこんでどす黒い色彩を生み出した。「……、」「なーに難しい顔をしているんだァ?簡単じゃねェか。俺たちの仲間に成ればいい」「煩い!誰が……っ!」「まぁ、いい。牢の中で頭でも冷やしておけ。自分の置かれている立場を理解することだな」甘寧が牢を閉めた。……近いうち拷問もあるかもしれない。悔しいが張角の妖術に抵抗力の無い一般的な人間だった為に簡単にかかってしまったようだ。



手は縛られている。きつく……何とか縄抜けしようともがいたが、そこから新たな血が滲むだけで、決して賢い選択とは思えなかった。潔くもがくのをやめる。そして、牢を観察する。……頑丈そうだ。……自分の武器が有っても、壊すのは難しそうだ。……だが、今の所奴らは私を殺す気はないらしい。……その間に何とかせねば。……取りあえず体を休めよう。左腕も痛む……それに、まだ、此処から出られないと決まったわけではない。機を伺い、此処から脱出をはかる。恐らくは私をまだ、生かしておくだろう。飯の時に否が応でも牢は開けねば成らない。その時だ……私は冷たい床に体を横たえた。



「おいおい、急に倒れ込む奴がいるかぁ?」「へ?」まただ、夢を見ていたらしい。練習用の剣が転がっている。急に倒れ込んだ……?私が……?甘寧は酷く心配そうな顔をしている。「す、済まない……迷惑をかけた。恐らく久々に体を動かして、疲れたのだろう……」「ま、もう随分剣なんて、握っていないもんな」抱きかかえられたままの私は急に恥ずかしくなってしまい顔を背けた。「おいおいー。照れるなって」「ばっ!照れて等!」「口付けなら、幾らでも部屋でしてやるから」「ば、馬鹿じゃないのか?!」幸せ……だ。そんじょそこいらの夫婦など、私たちの前では遠く及ばないだろう。お互いに力にも自信がある。だが、夢が気に成って、私は腕を巻くった。左腕だ。古傷に成っているが、まさしく甘寧の獲物で傷付いたものに違いが無かった。痛みは……勿論、あれから数年経っているのだろう、全く痛みなどあるはずも無かった。



「ああ……あの時は敵対しているとはいえ、女のお前を傷物にしてしまったのは本当に申し訳ないと思っているぜ。流石に、妻として迎え入れなければ男が廃るというか……ま、お前は顔もき……綺麗だし、……そ、その。最高の女だからよ……引く手数多だったけどよ」甘寧が照れて、赤面している。クスクスと笑えば笑うんじゃねぇー!俺は本気だったんだ!と怒られた。「すまんすまん。そこまで考えていたとは。いやー、私は別に責任とかそういうの取ってもらいたくないから「違う!俺は戦場で逢った時からお前に一目惚れしていたんだ……っ!」何という事でしょう。成人男性は此処まで可愛く成れるのだろうか。いや、男性に可愛い等とは失礼も承知だが、甘寧に触れたくなって、頬に口付けた。「ははっ、そういう事にしておいてやる」


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