第一夜




ガキィン!鋭い音を立てて鍔迫り合いになる剣。私のは大振りで、すばしっこい奴の獲物に先制を許せば一間の終わりだろう。チリチリ、チリリ。鈴の音が煩い、苛立ちに任せて蹴りをお見舞いすれば、倒れたと思ったら体制を立て直して、血を拭い私に切りかかってきた。私は今度はそれを受け流す。ザリ、肉の裂ける音がして、そこから血が吹き出てきた。痛みは本物で、受け流しきれずに獲物が左腕を掠ったと少し遅れて脳が伝達する。「へっ、やるじゃねェか!名前、女だと思って舐めてかかっていたがおもしれぇ!だが、もうじき、此処に援軍が来る。俺だけでも大丈夫……と言いたいが、手前は俺たちの軍の一番の脅威、それを肌で感じたぜェ……」肩で息をする、甘寧。どうやら、猛将を唸らせるだけの実力は持っていたようだ。敵に褒められて喜ぶ程落ちぶれちゃいないけれど、援軍とは……?甘寧が間合いを取る。瞬間に胡散臭い声がして、竜巻が巻き起こり呪詛が聞こえた。耳を塞ごうと思ったが遅かったらしい。「甘寧、よくやった。後は私に任せるがよい。名前……さあ、どちらが夢で現実か……選ぶがよい」瞬間眠気が襲ってきて……私は地面に吸い込まれた。



ゆさゆさゆさ、ゆさ。誰かが私の体を揺すっている。「おいおい、寝るこたぁねーだろォ?折角、朝食、俺が持ってきてやったって言うのに。起きていろって言っただろう?」チリチリチリリ、腰に巻いてある鈴が綺麗な音を上げて私はひっ?!と引き攣った声をあげて、大振りの大剣を構えようと背中に手をやったが、獲物の人を殺す鋭利な冷たさは無かった。「あーっ、寝ぼけているんだろう?全く、俺の嫁はしょうがねぇなぁ。可愛くて……仕方ねェ……」「よ、嫁だと……ふざけるな!甘寧、貴様……張角を使って妖術等姑息な事を……、眠らせてこんな夢まで見せるなど!殺す!殺してやる!!」だが、此処には獲物は無い、それどころか私は薄着で、大きな寝台に眠っている所を見ると甘寧と一夜を共にしたとみても過言ではない。……冗談じゃない!反吐が出る!その耳障りな鈴の音ごと、殺してやる!と殺意を向ければ近くで鈴の音が鳴った。



「へ、」私の腰のあたりに人の体温で温くなった黄金に光る鈴が玲瓏な音を運んだ。「ぷっ……くっくっく。さーては、お前。俺とお前が対峙していた時の夢でも見たんだろう?ま、あの時ははっきり言って、お前も俺を殺す気だったもんな?まー、でも俺が負けて、お前に惚れて……。今じゃこうして夫婦なんだから、世界はわかったもんじゃねぇよな」その鈴覚えているか?お前と付き合う時に俺が無理やりお前に持たせたんだ。今じゃ肌身離さず持っていてくれるから虫よけにも成っていいんだぜ。ってくつくつ面白そうに喉で笑っている。……まさか、先程までのが夢で、あれの未来がこの世界なのか……?いや、まさか。そんなわけがない……。



だが、此処で怪しまれるわけにはいかない。どうやら、不愉快だが此処では私は甘寧の妻……らしいからな。「おい、どうした?」「……、いや、朝食にしよう」「おう、城下で噂の肉まんだぜ。お前この間、城下で食いたそうにしていたからよ」……肉まんを受け取り二つに割るとほんわか温かく湯気を放ちながら美味しそうな匂いが鼻孔をついた。「頂きます」パクリ。口に広がる肉の旨み……これが夢……。いや、それにしては現実味を帯びすぎている。やはり、先程のは昔の夢だったのだ。……そういえば、大剣は何処へ?甘寧に聞いてみるか。「甘寧、私の大剣は?」「はぁ?俺が夫婦の契りを交わした時に、言った言葉忘れたのか?……負けた俺が言うのも何だけど、これからはこの身が朽ちようが、お前を一生守るって言って俺が、大剣を物置にしまったんだろう」……意外と情熱的なんだな。「あー、そのことなんだけど、やっぱり暴漢対策……に、剣またやろうと思って」



甘寧が顔を顰めたがそんなことはどうでもいい、先程の夢が終わった気がしなくて怖くて、怖気付いていたのだ。「なーるほど。まぁ、暴漢に妻が素手や護身用の短剣で勝てるとは思えねェ……しゃーねぇな」甘寧が姿を消した。無防備にも後ろを向いて、物置に向かったようだ。暫く待っていたら「ほらよ」ってずしっと重たい、大剣が私の元へ戻ってきた。「もう、戦う相手なんて山賊とか虎とかそんなもんだろう?お前は天下統一したんだからよ」……大剣はやはり、手に馴染む。何とか、以前の私を取り戻さねば。「剣の稽古頼むよ。甘寧」「甘寧じゃねぇだろ?旦那様とかもっとなんかあるだろう?」「……興覇」「おう!」ニカッて歯を見せて破顔した。


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