トリップ(関興)




初めてこのゲームに触れたとき、彼の事を人間離れした強さだなって、思った。だって、人が沢山群がってくるのにそれを彼は難なくクルリと回転して切り付けたり、武器をひゅんと横に振るだけで周りの人たちが勝手に倒れて行って死んでいくのだ。それを同じ人間だと、認識するのには困難な事だった。これが、最初の印象。そして、今、私は人生で最大のピンチに陥っている。何故か、ゲーム機が光ったかと思ったらそこはいつもの光景ではなくて、人々の怒号とか血が飛び交う戦場だったからだ。もう死んだも同然。と思った瞬間、目の前の人々が「ぐあああー!」とか雄たけびを上げて倒れて行った。何が起きたんだ、と後ろを恐る恐る振り返ると、普段はボーっとした気だるげな瞳なのに闘志を灯した瞳をした、関興という男が立っていたからだ。



「大丈夫?」「え、あの……私が敵とか思わないの?」と何故かもう緊張とか、阿呆みたいに現実感のないそれに、間抜けな質問が口から飛び出してきたが彼は笑うでもなく、ゆっくりと緊張を解くように私の手を握りしめて言った。「うん。貴女は私をいつも操作してくれている名前さん。違う?」「え、知っているんだ」「知っている。勿論、私以外も操作しているのは知っているけれど、私を一番に操作してくれているのは貴女だから」驚いた。どうやら、ゲームの中のそれと此処は連動しているらしい。ていうことは、私も強く成って居たり……はしないか。武器もないし、そんなものを扱ったことも無ければ武道を嗜んだことも無かった。仕方なく、彼の後ろについて行くことにした。生存本能に従ったというのが正しいのかもしれない。



彼はバサバサと敵を薙ぎ払っていくがいつもより、動きが鈍い。そりゃ、私のようなお荷物を抱えていれば動きだって鈍くなるに決まっている。と思った。瞬間、彼は庇う様に、両手を大きく広げた。ドスドスドス、矢が四本近く関興に刺さった。「え、」呆気に取られていたら関興がそれを引き抜き言った。「大丈夫。絶対無傷なままの貴女を守るから。私は貴女の夢だから……」夢?どういう事だろう?と首を傾げた。そういえば、私は男性の好みの理想像に彼を挙げていた。ぼやっとしているのにいざというときに頼りに成る。そんな男の人と。だから?「いやっ……関興!!私っ」「私は負けない。貴女の夢である私がこんなところで負けるわけにいかない」そう言って、矢をそのままに弓兵を薙ぎ払った。



帰るなり、皆私を歓迎してくれた。何故?って思ったけれど、皆プレイヤーということを知っているらしかった。でも、蜀に身を置くっていう事は、他の国とは敵対関係に成るのでは……という杞憂が……。いや、杞憂では終わらないだろう。実際、戦場では私を狙ってきていたじゃないか。「関興……あの、さっきの夢の事」「うん。私も貴女の事お慕いしている」だから、これからも貴女の夢でいさせて、一番近くに居させて。そう言って、跪いて手の甲に口づけを一つ落とした。ああ、落ちた音がする。


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