隣の席のトウ艾君




隣の席のその他(人名等)殿は小さい。お弁当の量もそれで足りるのかという程の量で心配になる。彼女が喋るたびに胸が痞えるような感覚に陥り、酸素不足に成ったかのように息をするのが酷く下手に成る。彼女はまるで仙女か、女神の様だ。自分にとっては眩しすぎるのだが、どうにも、隣の席に成っても距離は縮まらない一方である。どうやら、並はずれて大きな自分が少し怖く萎縮しているようだった。仕方ないと思いつつも横目で盗み見をしてしまう。なんて、情けないのだろう。男児がこれでは廃れてしまうというものだ。だが、自分には、それ以上の事何てできやしなかったのだ。



転機が訪れた。「あっ」最初は小さな声で何かをしくじったというような顔をしていて、固まっていた。鞄をがさがさと漁り始めて、漸く溜息を吐いて一息ついた。そして、自分に向き直り、頭を下げた。「隣のクラスの教科と間違えて持ってきてしまいました。トウ艾君、良かったら見せてくれませんか?」「勿論だ」そういって机をくっ付けた。授業が始まる金が鳴り、皆が一斉に座りだす。そして、姿勢をただし先生を迎え入れた。「きりーつ、礼」彼女が黒板を見て、さらさらと美しい字体でうつしていく。時間の流れと言うのは早い物だ。……全ての授業が終わった時名残惜しく感じてしまっている自分がいた。さっきまで隣に天女が居たのに。帰宅部の彼女が居なくなったのを確認して、その席を撫でてみる。



先程まで彼女がそこに居て、座っていて、温もりがあったというのにもう温もりは失せていて、ただの椅子と机が役目を遵守していただけだった。まだ、くっついている机に愛おしさを感じながらも自分は何も出来ないのだな、我ながら臆病だ。と自分を嘲った。翌日、まだ此処の地理に慣れていないその他(人名等)殿が音楽室の当たりをうろついているのを見かけた。何処かへ行きたいのだろうか?と声をかけたのだが喉元で何度も痞えてしまって、変な男に見えただろう。事実、怪訝そうな顔の名前殿の瞳とかち合ったのだから。「有難うございます、図書室を探していたのです」「それならば、」



そういって趣味で作っていた地図を渡した。その他(人名等)殿は一瞬訳が分からないという顔をしたが、地図を見て顔を綻ばせた。「トウ艾君って、怖い人だと思っていたけれど優しいのですね。そして、校舎の地図を作るだなんて、とてもユニークね」くすくす笑っていたがそれは悪意を含んだものではなかった。そして、礼をもう一度言われて、そこで別れた。自分が地図作りを趣味にしていてよかったと思った瞬間はこれ以上の事は無かったと思う。そして、女神の微笑みに陶酔しながら、鈴の音のような彼女の声を思い出していた。出来れば、もっと近づきたいと思うのは自分の欲だろうか。



更に翌日、机の上には甘味が乗っかっていた。「?」「トウ艾君この間は有難うございます。それは昨日のお礼です。地図見やすかったですよ。私、どうしようもない方向音痴で」「な、ならば、じ、自分が今度から一緒に……」「来てくれるんですか?」「あ、ああ。それを自分の任務にしたい」「ふふっ、有難う」微笑まれて、軽く眩暈がした。


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