隣の席の諸葛誕君




諸葛誕君は少しだけ怖い人だ。校則に厳しくて、この間もネクタイが少しまがっていた男子の事を注意していた。「そこ!ネクタイが曲がっているぞ」「は、はいぃ」男子はすっかり萎縮してしまいながらも、ネクタイを直していた。そんな諸葛誕君だからこそ、人望があるのかもしれない、何か困ったことがあったら私に言うようにと公言している通り、諸葛誕君の周りにはいつも人がいて、困った人に対してはしっかりと助言をしたり、行動を起こしたりして助けてあげているので、本当はいい人なのかもしれない。生活指導委員も大変だなぁ。



しかし、そんな諸葛誕君が隣だと何だかやりにくいものがある。真面目だから、私もいつ注意されるかわからない、隣で授業中に落書きなどしようものなら粛清!等と言う怒声と共に注意されるに決まっている。そんな諸葛誕君も人間だなと思った瞬間がある。なんと諸葛誕君が帰り道の途中で犬と戯れているのを見かけたのだ。何かの幻視かもしれないと思ったのだが、どうも幻視や妄想の類ではなく、本当の本当に諸葛誕君で柴犬と思われる犬の頭を慈悲に満ちた表情で、撫で付けていたのだ。あ、そんな顔も出来るんだ。と少しだけ感心した。いつも諸葛誕君は、しかめっ面というか、眉間に皺が寄っていて、近寄りがたいのだ。



夕暮れ道影が伸びていて、私の気配に気が付いたのだろう。諸葛誕君が振り向いた。そして、バツが悪そうな顔をして「見られてしまったな」とだけ言った。別にやましい事ではないのにと思ったら次の発言がとても彼らしかった。「登下校は速やかに行うようにと私い自身が言っているのにそれを破って犬と戯れる等と、」ああ、成る程。とやけに納得してしまった。詰まりこれは見てはいけないものだったのだ。「この事は黙っていては……いや。駄目だな、私が破ったのだから」ぶつぶつと呪詛の様に何かを呟いている。何を呟いているのかは大方、予想がつくが。「誰にも言わないよ。諸葛誕君と私だけの秘密ね」そう言ったら犬が尻尾を振るかの如く、諸葛誕君の瞳が輝いた。「おぉ、貴女はなんと慈悲深い」



それからだ。諸葛誕君に目をかけて貰えるように成ったのは。何かと、助けてくれるように成った。背はあまり高い方ではないが、こんなに懐かれるとまるで大型犬に懐かれた気分に成る。今日もあの犬の所に行き撫でていた所諸葛誕君が呟いた。「犬はいい、何故か親近感が沸く」「そうなんだ」「ああ、それにしても今日も司馬昭殿は遅刻だったな、何とか成らぬものか!」そういって怒りを露わにしたので落ち着いて落ち着いてと言って宥めた。「それに比べて名前殿は皆の模範の生徒だ。遅刻もしないし、勤勉で、礼儀正しい、私が隣の席でいいのかと思ってしまう程だ」それは盲目過ぎる気がするのだが、どうもうっとりとした熱の籠った息を吐いた。「それは言いすぎだよ」「そのようなことはない!ハッ、謙遜なさっているのか?何と謙虚な……!私は貴女の背を見つめているだけで胸が苦しくなる」そう言って胸を押さえた。疼痛?大丈夫かな?



「私はあの日、此処で貴女と約束をして以来、貴女を慕っている。こんな私では隣など相応しくないと思う。だが、どうか、貴女の背を追う事だけは許してほしいのだ。私は犬の様にその背を追うだけで、十分だ」これは、告白なのだろうか?犬とか凄まじい単語がでているけれど、不思議と彼の言いたいことは伝わってきた。私は答えた。「私は真面目で立派な諸葛誕君が好きだよ。だから、私の背なんか追いかけないで、隣を歩いてよ」私は、諸葛誕君とあくまで対等な関係で居たいのだ。だから、隣を並んでほしい。そういうと諸葛誕君は目を大きく見開き、驚愕していたが、やがて、頷き「貴女と出会えてよかった」と大袈裟な事を言ってきた。諸葛誕君は大袈裟だなぁ。


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