隣の席の馬岱君




彼のかく絵はとても繊細で、水彩絵の具を溶かしたような薄い色を伸ばしてつける。それだけで、彼の魔法の指先から芸術が生まれるのだ。今日は憂鬱な事に、美術の授業で相手の顔を模写しろと言う内容だった。私は美術が苦手だった。何せ、人の顔は一人一人勿論の事パーツが違う。普通の漫画の様な絵を書くのとか、ノートの片隅に落書きを書くのとはわけが違うのだ。お陰様で、私は美術の評価で四とかを取ったことが無い。小学校の頃も、頑張りましょう。とかいう評価が付けられたものだ。今と成っては苦い思い出である。美術の模写の相手は、同じ班の席が隣同士の人間と決まっていた。私の今の隣の席には馬岱君が座っていた。だから、相手は馬岱君だった。やけに心臓が早鐘を打ち、緊張する。



「その他(人名等)さん。今日はよろしくねぇ〜!」元気に挨拶されて軽く会釈をする。私と馬岱君は席が隣だけど、特別仲がいいわけでもなんでもない。馬岱君は広く浅い交友関係を築く為、馬岱君の周りにはいつも人がいるけれど、深くかかわっている人間は居ないと頭の中でインプットされている。確か一つ学年が上の馬超君とは仲がいいのは知っているのだが、彼らは確か親戚だったはず。詰まり、前述の通り他人と関わりが深い人は居ないのだ。「私、絵が下手なんだけど」「大丈夫だって〜!俺をちゃーんと見て真剣に描いてくれたら俺だって嬉しいし!」そう言って、鉛筆を手に取って、シャカシャカ紙に鉛筆を走らせる音を立てた。私も遅れを取らないようによく観察して、鉛筆を動かした。



出来上がったのはチャイムが鳴る少し前だった。相変わらず輪郭も歪だしこれを馬岱君だと言うには失礼だというものだ。馬岱君は私の事をジッと見つめていた。「書き終わったの?」「あ、ああ、うん。まあ」言葉を濁した。これを馬岱君に見せたらなんて言われるんだろう。とか少し怖くなった。だけど、馬岱君が屈託なく笑って「見せてよ!俺も見せるからさぁ!」って言ってせがんできたので仕方なく見せた。……馬岱君の絵はまるで、芸術そのもので、私を水面越しに見つめているような錯覚に陥った。それほど洗礼されていたのだ。馬岱君は無言で私の絵を見ていたがやがて口を開いた。「うん!中々いいね。俺の事、ちゃんと見ていてくれたんだね」「それを言うなら馬岱君だって。とってもうまい」



馬岱君を素直に褒めると馬岱君は朗らかに話した。「そりゃ、そうだよ。君の事ちゃんと見て書いたからね。いつも、見ているから他の人を書くよりもずっと自信があるよ」


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