第六夜




「……いや、そこまで責任を感じなくてもいいんだが」「うるせー!俺は女は傷つけねェ主義なんだよ!」チリリ、鈴が煩く鳴る。今、私たちはあの土地から遠く離れた場所に小ぢんまりとした空き家にひっそり、暮らしていた。此処の民は皆良い人ばかりで、私たちの事を直ぐに受け入れてくれた。そして、甘寧に今、求婚されている。……私としては罪悪感とかで夫婦に成るのは間違っていると思うから、勘弁してほしいのだが。どうにも甘寧は、それは俺自身が許せねぇんだ!って言って聞かない。夫婦とは好いた者同士が成る物だろう……。全く、目を醒ませてやった恩義を感じるのも、傷をつけた罪悪感を抱くのも勝手にしてほしい物だ。



「そうじゃねぇんだ。俺、お前を初めて見た時から惚れていたんだ……!張角の妖術にかかって眠りこけるお前が、そのまま、死んじまったらってずっと不安だった」張角の妖術で眠り、醒めない者しかいなかった。だから余計に不安だったのだろう。だが、私は奇跡的にも目を醒ました。甘寧がぶちっと嫌な音を立てさせて、鈴を一つもいだ。そして、私にそれを押し付ける様にして、くれた。「……やる!」「いやいや、鈴の甘寧が泣くぞ?もっと鈴を大事にしろ」といったが、こいつも中々頑固者の様だ。意固地に成って、突き返しても受け取ってくれなかった。仕方なく紐を通して、腰に付ける。お揃い……みたいでなんだか、夢の続きを見ているようで嫌だなあ。とぼんやり思った。「それに、俺も目が醒めたんだ。お前と交えた刃のお陰で……全ての呪縛から解き放たれたんだ。どうか、俺と……一緒に成ってくれ。この土地では何の権力も無い、金も無い、ただの甘興覇……ただ一人の男として。お前に求婚する!」甘寧が夢で見た様に歯を見せて破顔した。



時は流れた。最近は、剣を振るう事は無くなった。結局私が折れて、婚儀を結んだのだ。大々的な物ではなく、小規模な至って普通の婚儀だった。だけど、桃の花が咲き乱れ、春の風を感じられる素敵な一日だったのを今も覚えている。「あーっ!おい!歩くな!寝ていろっ!っつたく、世話が焼けるぜ」「はいはい、済まなかったな!だけど、甘寧……いや、興覇……私だってまだ、歩ける」そう言って、水を取りに行こうとすれば止められた。……解せぬ。瞬間腹に衝撃が走った。「いだっ!け、蹴られたっ。興覇の子だからか……?些か元気がよすぎる気がするんだが」甘寧は朗らかに笑っている。「はっはっは!流石俺の子だ!」「いや、笑いごとじゃないからな?!」



水は結局甘寧が持ってきてくれた。あと、最近は食事が少々辛いので桃も持ってきてもらった。至れり尽くせりとはまさにこの事である。……私は甘寧の子を身籠った。そして、左腕の傷はもうとうに塞がっていて古傷と成りそこに残っている。……新しい時代を築くのは私たちではない。この新しい命こそが、次代を築く若い力と成るのだ。ふふっと笑みを零したら甘寧がなぁに笑っているんだと因縁を付けてきた。「いや、夢の通りだな……いや、夢より幸せだ。それに夢では赤子は流石に身籠っていなかったからな」「へぇ、名前、恥ずかしがって中々俺と夫婦だったときの夢は話してくれねェからこれは、貴重な話を聞いたぜ」そうだ、私は甘ったるい甘寧と夫婦だった夢の方を甘寧には中々話せずにいた。もう片方の敵対して殺された方の夢は耳にタコが出来るほどに聞かせてやったんだが最近は聞き飽きたようでこちらのほうを詮索して来る。全く迷惑な話である。……しかし、幸せだ。


おしまい!

夢から醒めて、私は幸福を得た。


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