第四夜




「おいおい、大丈夫かよ。俺の妻は病でも得てしまったのか……?」甘寧が不安そうな顔で覗き込んでいた。いつのまにか寝台に居て、甘寧の香りが広がった。……酷く安心する。済まない、と謝罪をして。難しい顔をする、此処まで立て続けに、夢を見るものなのだろうか、夢と現実を行き来している。そう考えるのが道理であろう。だが、……どちらが本物なのか私には全く見当もつかない。片方の世界へ行けばそちらの世界が本物のように感じられ、またもう一つの世界へ行けばそちらを現実と思いこむ。それの繰り返しである。張角の言葉を思い出す。さあ、どちらが夢で現実か……選ぶがよい……。片方は幸せな夢で片方は捕虜で行き詰った世界。……普通の思考回路でいけば、こちらの幸福な世界が偽物だと考えるのが普通であろう。「興覇……いや、甘寧」「どうしたんだ。急に甘寧だなんて……何かあったなら、何でも俺に言ってくれ。力に成るからよっ」甘寧は私を少しでも元気づけようとしてくれる献身的な夫だ。……だが、これは夢……だっ。都合の良い夢だ!



「これから言う事を、信じて欲しい。私は張角の妖術にかかっていて、二つの世界を行き来している。……片方はお前と夫婦で幸せな暮らしをしている。そうして、もう一つの世界は……私がお前と張角の前に膝を折った、将に過ぎない。先程から眠ってしまうのはその為だ、交互の世界を行き来しているのだ。……そして、片方の世界は恐らく妖術である」此処までは推測だが、恐らく間違っていないだろう。そして、私の答えも恐らく間違っていない。正しいはず、なんだ。「……で、何が言いたいんだ……?まさか、俺の世界の方を夢だと言いたいのか?!」甘寧が息を荒げて私に詰め寄った。切羽詰まったような切なげな瞳に射抜かれる。……そんな目をしないでくれ。「……恐らくは。こんな都合の良い話があるわけが」「あるんだ。俺を否定しないでくれ。俺はお前を……、っ!お前は悪い病を得たんだ。そうに決まっている!」



……その可能性も捨てきれない。だが、「医者に診て貰おうぜ?な?……俺の事、夢だなんて……言わないでくれ。頼む……」縋るように、私を抱きしめてくれる甘寧の温かさは本物でまた、錯覚してしまいそうになる。だけど、駄目なのだ。それでは駄目なのだ。「甘寧、私は逃げない。現実に立ち向かう、決して屈しない。何故ならば、私はお前たちの悪逆非道な行いの数々、統治を打ち砕かねばならないからだ!」そう言って突き飛ばして、護身用の短剣を胸に突き刺した。ドクリドクリ、痛い、焼けるような痛みを伴う。迸る、鮮血。甘寧の獣の咆哮の様な悲鳴。痛い……こちらが現実だったのか?だが……もう遅い、視界は闇へと閉ざされていった。



「おい。……やぁっと目ェ覚ました。お前、張角の野郎に妖術使われてから様子が可笑しいな」矢張りだ。正解をなぞったのだ、現実に戻った。これで、恐らく張角の妖術は解けたはず。……私は甘寧に説明をする。長くて先ほどもしてきた説明を。甘寧は耳を傾けていたがこちらが現実だと受け止めた私に対して寂しそうに笑んだ。「それはどうかな?痛みとかも本物だったんだろう?こっちでも試してみろよ、」そう言って私に短剣を向けてきた。やばい、こっちで死んだら洒落に成らないぞ……だって、こっちは現実なのだから、こっちが死ねば、夢も糞も無い!「や、やめてくれ……」「……もう、うんざりなんだ」心臓を鷲掴みされたような疼痛。……そして、首に走る熱い液体は私の死を意味していた。首を掻き切られたらしい。……。


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